第17話 貴族と魔族

 授業が終わり、おれは部屋に戻って、ポケットから紙を出す。


  今日の内容

 ・防衛作戦の基礎、心得


 ・魔族を見つけた場合の対処法


  ……


 ちがうこれじゃない。


 もう一枚の方だ。どうにもこういう二分の一の引きが弱い。


 おれはポケットをカサカサと漁り、折り畳まれた紙を出した。


 ・jpjdmwdkttjdwxjm

 jgmmjdn


 →keumwjnttwmwxt


 tpjnup1.

 tgjmjjp tpjmmkun


 ……

 』



 これこれ。


 一見すると意味の分からない手紙になっているが、これは暗号になっている。


 仕組みはこうだ。


 例えば、"Hello"と書きたいとする。すると、事前に決めておいたキーワードの分だけ、文字をずらすのだ。


 例えばキーワードが"abc"なら、"Hello"は、'H'に対応するのがaなので、1文字ずらし、'I'になり、'e'はbが対応するので2文字ずれて、'g'となる。cまで対応が終わったら、またaに戻り、ループする。


 よって、"Hello"は、"Igomq"となる。


 解読する時は逆に戻せばいい。


 これは元の世界では、ヴィジュネル暗号と呼ばれていたもので、今回はそれをこっちの世界の言葉用にアレンジしたものを使っている。


 つまり、解読すると内容は、


 ・契約をすり抜ける方法

 影武者を使う


 →貴族が怪しい


 貴族1. アルノー・ルパート

 特徴 老紳士

 魔法担当官



 2. ライアン・デュクレ

 特徴 熱血

 騎士団を運営


 3. ギヨーム・メイテ

 特徴 ひげ

 事務官として、仕事をしている

 』


 貴族の情報か……


 ◇ ◇ ◇


 翌朝。目覚まし時計の音と共に目覚める。こいつはどこも変わらないな。


 そして朝が辛いのも変わらない。こっちの世界に来て、スマホなどがなくなったのと、運動量が増えたことで、少しはマシになったが、やはり朝は辛い。


 昨日は夜まで手紙を解読していたのだから、尚更だ。


 おれはまだ眠りたがる身体に鞭打ち、トイレに入った。


 朝の支度を終え、部屋から出ると、部屋のドアの横に座っていた護衛の人と挨拶する。


「おはようございます」

「おはようございます!」


 護衛の人はいつも元気いっぱいだ。


 そうしておれは食堂に足を運んだ。

 時間ギリギリだった。部屋でゆっくりしすぎたか。少し早足で歩き、おれは何とか時間ギリギリに着いた。


 しかし、規定の時間になってもクラスメイトのひとり、古山が現れない。どうやら寝坊したようだ。

 護衛の人からそう報告があった。


 分かる。朝はしんどいよな。


 一応心配なので、もうちょっと時間が経ったら見に行こうかと話をしていたら、丁度古山が来た。


「遅かったな」


「寝坊した」


 彼は今日のメニューは? と尋ねながら、急いで食べ始める。


 ちなみにもう皆半分は食べ終わっている。


 まあ、別に訓練に遅れてもペナルティはないわけで、そう考えると元の世界より良いなと思った。


 ◇ ◇ ◇


 その日の訓練は、怒涛のスキルラッシュだった。


 池田に田村に、小山さん。


 計3人がスキルを得たのだ。


 スキルの詳細を調べたいところだが、そうも言ってられない。


 これから貴族との親睦会だった。恐らくここで、何か手掛かりを掴めという、そういうことだろう。


「貴族と会うなんて緊張しちゃう」


「どんな人だろう」


「無礼者とか言われて処刑されないかな…」


 クラスメイトは色めき立っているが、そんな中、おれは高田さんにこっそり話しかけた。


「貴族の人達の話、よく聞いておいてくれよ」


「それは…」


「そう。そういうことだ」


 今回は嘘を見抜くスキルが、重要な役割を果たすだろう。


 ◇ ◇ ◇


 貴族。


 この国にも元はたくさんの貴族がいたが、戦争で数を減らし、有力な貴族は市長として再編成された。


 城にいるのは、主に雑務を担当する貴族だ。


 そんな貴族との親睦会が始まった。あくまでもパーティではないので、貴族の人が来て、その人と話すだけだ。軽い紅茶とクッキーが出た。


「私のなまえは、アルノー・ルパートです」

 最初の貴族の人がカタコトで言った。頑張って日本語を勉強してきたのだ。


 最近外交官の人と言葉の勉強会をしているので、彼らから習ったのだろう。


 順次クラスメイトにも勉強していってもらっているが、まさか貴族の人がわざわざ勉強してくるとは、驚きだった。


 その後はもちろん、おれの通訳の元、彼がどういう仕事をしているのかなどの話が進む。そんな中、司会役?として話を聞いていた王女様が尋ねた。


「アルノー様は魔族について、どうお考えですか?」


「急ですね。どう、と言われると困りますが、魔族は悪だと思っていますよ」


 おれも話に入る。


「そういえば、城内にも侵入しているのでしたか。アルノー様はどう思われます?」


「恐らくもう逃げた後だろうと思いますな」


 そう言うと彼は紅茶を優雅に口にした。


 それからしばらく話し、アルノーさんが部屋を出る。


 その後、交代で次の貴族の人が来た。なんか貴族の人達にばかり移動してもらって申し訳ないな。


 後、こういう順番ってどう決めてるのだろうか。色々問題になりそうだが……


 案外貴族同士仲良いのだろうか。


 2人目の貴族、ライアンさんは資料の通り熱い人で、ことあるごとにおれ達を勧誘してきた。


「ですから、ぜひ、我が騎士団に入っていただきたいですな」


「はは…今後機会があれば是非…」


「ところで、ライアン様は魔族について、どうお考えでしょうか」


「ふむ。魔族ですか。魔族は侵略者だ。決して許してはならない。その点でも、異世界人の皆様には期待したいですな」


「この城の中にも、やはり魔族は潜んでいるのでしょうか」


「ふむ。私が襲われたら、返り討ちにしてみせるのですが」


「それは心強い」


 クッキーをひと齧り。バターだ。


 ◇ ◇ ◇


 最後に3人目。親睦会を予定している最後の貴族が来た。


 口髭の目立つ紳士だ。

 大層な護衛と共に入ってきた。


「どうもこんにちは」


「どうも。ギヨームです」


「よろしく」


 同じように会話を繰り返す。


「ギヨーム様は、魔族について、どうお考えですか?」


「魔族ですか? 魔族には困ったものですな」


「そういえば、この城の中にも魔族がいるとか」


「…恐ろしいものです。早急な対処を望むばかりですな」


 おれは残った紅茶を飲んだ。ぬるい。


 そして全員が帰り、解散した後。おれは高田さんから、話を聞いた。


 嘘つきは3人目の貴族。


 ギヨームだ。

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クラス召喚? 〜言葉分かるのおれだけ⁉︎ 通訳で大変です〜 日山 夕也 @hiyama5

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