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 それから二か月ほど経って、僕がまだ大学生活に慣れ切らず四月病を発症しかけていたころ、彼が郵便で写真を十一枚送って寄こした。東京観光の時にスマホで撮った写真を光沢紙に印刷したもので、一枚だけ、窓を開け放した病室の真っ白のベッドの上で本を読む、猫背の彼女の写真もあった。ところが奇妙なことに写真はすべて白黒になっていた。僕はそれらの写真を見て一瞬、日に焼けた本を開いたときに舞う埃のにおいを嗅いだときのように、胸の中が乾いて空っぽになった。でもその感覚は僕の四月病をほんの一瞬、癒してくれたようでもあった。

 封筒には次のことを書いた一筆箋が同封されていた。


『この前は東京を案内してくれてありがとう。お礼に写真を送る。彼女の写真もある。今どき紙媒体で写真を送るなんて不経済だと思うかもしれないけど、まあそう言うな。なかなかうまく撮れてるだろ? 

 写真が全部白黒なのは気にしないでくれ。カラーフィルムを忘れたんだ』

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クィアな僕らはカラーフィルムを忘れた【カラーフィルムを忘れたのね 書いてみました】 @Choco-Roll17

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