常連の不良くん達

第2話

とある月曜日。これは、今や常連に成り果ててしまっている4人の不良くん達との、出会いの話である。







――――――――――――――――――――






『はぁ…、よし。こんなもんかな。』





半年前、唯一の家族だったじいちゃんが死んでから、ずっとやってた喫茶店を引き継いだ私。




ちょうどその頃勤めてた会社が所謂ブラック企業というもので、辞めようか悩んでたところだったからいい機会だと思って、あっさりと辞表を叩きつけてやった。




でも、そのまま店を続けていくのもなぁ…と考えた結果、密かな夢でもあった、メニューがカレーのみの新しい喫茶店を始めようと思い至ったのである。




…何でメニューがカレーだけなのかって?それは私が超がつくほどのカレーマニアだからだ!!そしてカレーしか作れねぇからだ!!というのはとりあえず置いといて、まずはこの古くさい内装から変えないとな。




ということで、貯金の半分以上を使い果たして自分好みに改装をしまくり、その合間にありとあらゆるカレーを食べ歩き、研究を研究に重ねて、ついに、自称カレー大好き女の私の、念願だったお店がオープンしたのだ!




これからは、穏やかな、ゆったりとした日常が流れていくのだと思っていた。そう信じて疑わなかった。






…なのに。これは、一体、何だ。






オープン初日、記念すべき一発目の初来店者は、






「おねーさん!この店何か雰囲気変わったんだね!?メニューはカレーだけなの?変わってんね!じゃあカレーくーださい!大盛りで!」



「前はじいさんがやってたよな?急に閉まってるからよ、びっくりしたわ!俺もカレー大盛りで!」



「何か、亡くなったみたいだよ?それで、孫が引き継いだって近所の人が話してたし。だよね?美人なお姉さん。あ、名前教えてよ。それと俺もカレー欲しいなぁ。」



「…俺も。」







学ランを着た、4人の不良くん達でした。しかも、じいちゃんがやってた頃からの、常連らしい。






まぁ、うん。それは別にいい。不良が嫌いという訳ではないし、客は客だからシンプルに嬉しい。が、見てみろ外を。気になって店の中を覗いてくれてる人達がちらほらいるが、明らかに中にいるこいつらを見た途端に足早に通り過ぎて行ってしまっている。





営業妨害じゃねぇかよくそっ!と思ったが何とか我慢して、「いや声に出てたぞ。」…何か聞こえたが無視だ無視。大人な私は冷静に、4人分のカレーを大皿に盛り、完璧な営業スマイルでテーブルに運んだ。「いや表情筋死んでんじゃん。」…とか何とか聞こえるが、さっきからうるせぇなこいつら、黙ってろ。






「てか、うまそー!!いただきまーす!」



「うぉ、うんめ!!今まで食べたカレーの中で一番うめぇわ!!」



「ほんとだ、美味しい。ねぇお姉さーん、名前教えてよー?」



「…んま。」






…何故か私の名前を知りたがる命名チャラ男くんは無視して、そう美味しそうに食べるこいつらを見て、






『…それ食ったらさっさと帰れよ、不良ども。』















私は、半分照れ隠し、半分本音の言葉を、吐き捨てたのであった。

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