第2話 嫉妬の炎
総勢200名を超えるカガミ様ファンとのふれあいを終え、自宅への帰路につこうという時だった。
背後に何者かの気配を感じる。
俺が振り返ると、真っ赤な夕焼けに照らされる道路の上にぽつんと黒い炎があった。
黒い炎を両手にまとわせた、黒い狐の仮面をかぶった人影があった。
「カガミ様と言えど、家までのストーキングはお断りだ。大人しく帰ってくれ」
返事は帰ってこない。カガミ様からの問いに返事もないとは無礼な奴だ。
とはいえ、俺と同じ伊能高校の制服を着た狐仮面の人間が手から黒い炎を出しているのはあまりにも不審。流石に通報するか。
スマホを取り出そうとした時、フラッと不審な男が両手を上げた。
それに呼応するように黒い炎が蛇のようにうねりながら俺へと襲い掛かってくる。
だが、黒い大蛇がカガミ様ののど元に食らいつくことはない。
俺が指を鳴らすと、黒い大蛇の眼前に大きな鏡が現れる。黄金の幾何学的な装飾を纏ったそれはカガミ様の美しい姿を寸分の狂いなく映し出すとともに、大蛇を飼い主ののど者へと返した。
狐仮面は自身が出した黒い炎に巻かれ、アスファルトの上をダンスでも踊るかのようにのたうち回った。
「このカガミ様と同じような力を持っているとは、貴様何者だ? この妙な仮面を剥げばわかることか」
俺が妙な黒い狐の仮面をはぎ取ってやろうとした、その時だった!
狐の口からさっき見た黒い炎が吐き出される!
しかし、そんな子供だましを食らうほどカガミ様は甘くない。
瞬時に顔の前に鏡を顕現させ、炎をはじき返す。
炎が消えたのを肌で感じた俺はすぐに鏡をどけて狐仮面を確認する。
「逃げられたか……」
厄介なことに俺の目の前には燃えカスどころか、炎の痕跡すら見当たらない。逃げたような靴の跡もなく、黒い炎の特別な力でどこかへ行ったのだと考えた。
まったく、近頃は悪質なファンという奴も多い。
カガミ様だから美しいというのに妙なアドバイスをしてくる輩がいたり、すべてを知ろうと狐仮面のように付きまとってくる者がいたり。
自分の知らない部分があるという事実も受け入れて、目の前の者を愛するということが『推し活』という奴ではないのか?
「ね! 君、名前は? 今のバ~ンって鏡出す奴はいつからできるようになったんだい? さっきの黒い炎の奴は誰なんだい? それからそれから」
「カガミ様への質問は受け付けているが、そうも矢継ぎ早に聞かれてしまうと答えられないぞ。そもそも君は誰なんだ?」
考え事をする俺の前に現れたのは、またしても伊能高校の制服を着た人間。
手から炎は出ていないが、快晴の空の下に似つかわしくない黒い折りたためない傘を持っている。
先ほどの狐仮面が男性らしい骨格と背丈だったのに対し、現れたのは小柄な女性。綺麗に手入れされているであろうキューティクルを持った輝かしい茶髪に、大きく黒い瞳をした見目麗しい女性。
その見目麗しさをかき消すように質問の嵐を降らせてくるが。
「私は
「そうか。俺は白銀 カガミ。伊能高校の1年生だ……ん?」
今目の前にいる謎宮は自身の年齢を18歳と言ったか?
高校三年生であれば18歳であってもおかしくないが、今日は4月1日だぞ?
まさか……一応確認しておくか。
「一つ聞きたいんだが、誕生日はいつかな?」
「2月2日だ」
「学年は?」
「高校三年生」
「その高校三年生、何回目だ?」
「勘のいいイケメンは嫌いじゃない。君の御察しの通り、私は二回目の高校三年生を今日始めたところだ」
おしゃれに言っているが留年ではないか。
「イメージだけで話をするのはあまり好きではないのだが、先ほどの質問攻めを受けて学力不足で留年するタイプには見えなかった。何か理由があってのことなのか?」
「やはり君は感がいいね。私はこれの調査のために伊能高校に居続ける選択をした」
謎宮がおもむろに持っていた傘を赤く染まる空に向けて開く。
その時、雨が降り始めた。
青春発達性異能病 蛇乃木乱麻 @neekoo
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