青春発達性異能病

蛇乃木乱麻

第1話 カガミ様、降臨

「ねえ、あれ新入生!? 顔整いすぎじゃない!?」

「私、連絡先聞いてこようかな」

「あんな奴が同期に居たら彼女できなくなるぞ……」

 俺に向けられた私立伊能しりついのう高校の生徒たちからの羨望や愛のまなざし。

 本当に輝いている男というのは、4月1日から3月31日まで絶え間なく子猫ちゃんたちからの黄色い視線を浴び続けることになるのだ。


 入学式を終えて自分の教室に向かうために廊下を歩くだけで、両脇には俺のファンたちが集まり、白い床は今日からレッドカーペットになる。ひとたび視線を向ければ、そこには爆発したような歓声が上がる。


 それが俺、白銀しろがね カガミという男なのだ。


 自分の席に着くと、バーガンディレッドのカーテンがかかり周りが見えなくなる。

 伊能高校の制服のカラーは美しい。カガミ様の身にふさわしい。


「名前なんて言うの?」

「どこ中学の人なの? 誰と仲いいの?」

「連絡先聞いてもいい?」

 俺の周りにできた子猫ちゃんたちの列は教室の外まで飛び出しているらしい。これも俺への愛というわけだ。

 向けられたすべての愛に返事をすべく、口を開きかけた時だった。


「おい! こんなに集まって何事だ!」

 どうやらこのクラスの担任の先生が来たようだ。これから1年間お世話になるわけだし、迷惑はかけられないな。


「子猫ちゃんたち、聞いてくれ。ここでは先生の迷惑になってしまう。カガミ様と話したい者は放課後にまた来てくれ。いい場所を見繕っておく」

 俺の言葉を聞いたみんなは、いい返事の後に自分の今いるべき場所へと帰って行った。

 その後、茶髪をひとくくりにした担任の先生が妙な顔をしながらやってくる。彼女は激務による影響かくまがひどいが、顔はとても美しい


「お、お前、すごい人気だったな。芸能人か何かなのか?」


「ただの高校生ですよ。生まれたときからカガミ様なことを除けば」


「お、おう」

 微妙な反応をして教卓の方へ戻っていく先生。

 随分疲れているようだ。


 教室の最も目立つ場所に立った先生は落ち着きのない教室をまとめるように話し始める。

「私が今日から1年間君たちの担任をする、松羽まつばね ヒカリだ。担当は歴史、好きなことはほかの人が働いているとき休むことだ」

 松羽先生の自己紹介が終わると、今度はクラスメイトの自己紹介の流れになる。


 落ち着いて自己紹介をする者、少しふざけて自己紹介をする者、緊張している者。

 さまざまな者が黒板の前で自分を紹介しているうちに俺の番が回ってくる。

 輝きを教室に振りまき、黒板の前まで歩く。


「俺の名は白銀 カガミ。趣味は輝くことだ。1年間よろしく」

 俺の自己紹介に、クラスメイトからは歓声が上がり、教室には日が差し込む。

 やはり俺の輝きは万物に通じるらしい。


 ◇


 自己紹介や諸々のプリント配布、軽いレクリエーション等を終えた放課後。

 俺は高校の中庭を校長よりお借りし、集うファンたちの対応を行っていた。

 中庭の中央に植えられた、大きな桜の木を円形に囲うよう等間隔に置かれたベンチの一つに座る。カガミ様がここに在ることを祝うように桜吹雪が舞い散る。


「カガミ様は彼女とかいますか?」

「連絡先教えてください!」

「第二ボタン予約ってしてますか?」

 ブレザーにおける第二ボタンとはどこなのかを思考しつつ、ファンから向けられる言葉を一つ一つ返していく。


 カガミ様は一人でも輝いている。

 だからこそ、輝きを求める子猫ちゃんたちをも照らさなければならないのだ。その輝きがつながって行けば世界も平和になるはず。


 だが、この時俺は知らなかった。

 カガミ様の輝きを狙う炎がゆらゆらと勢いを増していることを。

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