学校1

 なんとか現代文の授業に間に合った。俺と千賀子は、机をならべ先生が漱石『こころ』について話すのを聞いていた。千賀子が目をキラキラさせていた一方で、俺は五分もたたないうちに眠くなった。


 現代文が終わると、机に突っ伏して眠る俺の肩を誰かが揺さぶった。

「なんだ、千賀子か?」

 顔をあげると、そこにいたのは千賀子ではなく、幼なじみの佐和が俺にジト目を送っていた。

「寝てないで、授業聞かなきゃだめでしょ! だらしないんだから」

「すまん」俺は言った。「あー、腹減ったな」

「お弁当作ってきてるよ」

「おお、佐和の弁当か!」


 屋上であたたかな日差しを浴びながら、佐和の弁当に舌鼓したつづみを打つ。タコさんウインナー、甘い卵焼き、鮭とタラコのおにぎり。どれもほっぺたが落ちそうな味わいだ。

「佐和の作る弁当はうまいな。心がこもっているというか」

「やだ、京ちゃん」

 佐和は顔を赤らめた。

 だがその直後、佐和の顔つきはかげりを帯びる。


「あのね、京ちゃん」と佐和。「聞きたいことがあったんだけど」

「ん? 何だ?」

「千賀子ちゃんと付き合っているって本当なの?」

 佐和の言葉に麦茶を吹き出してしまうところだった。

「おおお、俺が、千賀子と⁉︎ どこのどいつがそんな話を⁉︎」

「噂に聞いたの。きょうも二人で仲良く登校してきたって」

「俺たちはただの友達だよ」

「京ちゃんは……千賀子さんのことが好きなの? その、恋愛の対象として……」

 佐和の瞳はうるおいを帯びた。


 一体、どうして佐和は熱心に噂の真偽を知りたがっているんだ?

 俺はこう答えた。


・違うよ

https://kakuyomu.jp/works/16818093087082605981/episodes/16818093087082802384


・関係ないだろ

https://kakuyomu.jp/works/16818093087082605981/episodes/16818093087082837741

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