起きる

「いい加減、起きたほうがよさそうだな」俺は背伸びをした。「寝すぎると逆に調子が悪いからな」

「うんうん、それがいいよ」


 家を出て、俺たちは朝の通学路を歩く。道路にはたくさんの通勤・通学のひとたちがいた。

「どうしたんだ、佐和。なんかうれしそうだな」

「だって、久しぶりに京ちゃんと学校に行けるんだもん」

 佐和は声を弾ませた。


 俺は佐和の身体を引き寄せた。身体が密着するぐらい近くに。

「京ちゃん!? な、な、な、なにを!?」

 佐和はその顔を真っ赤にさせた。

 ブウン!

 その直後、佐和の後ろを、高級外車のセダンが走り抜けていった。

「きゃっ!」

 佐和から悲鳴が上がった。

「バカなドライバーだ。こんなせまい道でぶっ飛ばすなんて」

 遠ざかっていく外車の後部を、俺はにらみつけた。


「危なかったな、佐和。もう大丈夫だぞ」

 俺たちの身体が密着していることにたった今気がついた。佐和の首の後ろあたりからシャンプーの匂いが漂ってきた。

「ち、違うんだ。そういうアレじゃなくて」

 あわてて佐和から離れた。

「わかってるよ、京ちゃん。すごく……うれしい」

 長いまつ毛の下のうるんだ佐和の瞳に、俺の胸の鼓動は破裂しそうなぐらい高鳴った。


「朝から見せつけてくれるねえ! お二人さんっ!」

 見つめ合う俺たちに割り込むように、クラスメイトの猫田さんが姿を現した。

「猫田さん? 違うんだ。不可抗力なんだよ」

 俺は弁解した。

 猫田さんはにやにや笑っていた。彼女は、佐和の親友で、長い髪の佐和とは対照的に、ショートの髪がトレードマークだ。

「ふーん。理由はどうあれ、もう君たちはみんなの注目の的だよ?」


「みんな?」

 周囲を見渡した。見れば、通行人の顔が俺たちに向けられていた。

「えええ!?」

 俺たちは逃げるように走り出した。



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https://kakuyomu.jp/works/16818093087082605981/episodes/16818093087082774239

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