第4話 ケースがもたらす運命の選択
「1時間後、大きなトラブルが起きます。」
そのメッセージを見た瞬間、僕の心臓は一気に跳ね上がった。未来が分かるケースの力は本物だと確信したものの、今度は「トラブル」という警告。これまでの通知とは違って、明らかに不安をかき立てる内容だ。すぐに田中Kにメッセージを送ったが、今回だけはなぜか返信が来ない。
「どういうことだよ…。一体何が起きるっていうんだ?」
僕は時計を見て、残り時間を確認した。あと50分。このケースが未来を予測できるのなら、今のうちに何か対策を打てるはずだ。しかし、何のトラブルが起こるのかも分からないままでは、どうしようもない。焦りが募る。
しばらく部屋の中を歩き回りながら、様々な可能性を考えた。家で起きるトラブル? 外で? 人間関係? 何もかもが不明だ。未来が分かるというのは便利だが、逆にそれが運命の枷のように感じられてきた。
「何か手がかりはないのか…」
ふと、ケースの他の機能を思い出した。「周囲をスキャン」と「過去のメッセージを追跡」という項目がある。今まで使っていなかったが、もしかしたらこれでヒントが得られるかもしれない。僕は「周囲をスキャン」をタップした。
すると、スマホの画面がぼんやりと光り始め、次第に周囲の環境を解析するような画面に変わった。部屋の中がスキャンされていくと、突然、警告音が鳴り響いた。
「危険区域:玄関付近」
「危険…区域? 何だよ、玄関に何があるんだ?」
僕は玄関に急いで向かい、慎重に覗き込んだ。そこには何も変わった様子はない。ただの玄関だ。しかし、スキャン機能が警告している以上、何かが起こるのは間違いない。僕はドアチェーンをしっかりかけ、念のためカギを二重にかけた。
すると、またスマホが震えた。新たな通知だ。
「30分後、玄関でトラブルが発生します。」
時間が刻一刻と迫っている。この状況をどうすればいいのか、考えがまとまらないまま、僕はついに田中Kに再度メッセージを送った。
「トラブルって何なんだ?どうすればいいんだ?」
しばらくして、田中Kから返信が届いた。
「これは君への最後の試練だ。君がこの未来をどう捉えるか、それが全ての鍵になる。トラブルを避けることもできるし、立ち向かうこともできる。すべては君次第だよ。」
「試練? 何を言ってるんだよ!そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」
混乱しながらも、僕は頭を整理しようとした。このケースは未来を知らせてくれるが、運命を変えることができるのか? あるいは、決まった未来に逆らうことはできないのか?
もうすぐ30分が経とうとしていた。僕は部屋の中で緊張しながら時間を待った。そして、その時だった。
突然、玄関のチャイムが鳴り響いた。
「まさか…!」
警告された通りだ。僕は恐る恐る玄関に向かい、ドアの覗き穴から外を確認した。そこにいたのは――
「さっきの宅配業者…?」
同じ人物が、今度は不自然な笑みを浮かべて立っている。手には先ほど届けられた包みとは違う、何か重そうな荷物を抱えていた。
「開けてください。再配達です。」
しかし、明らかに不審な様子だ。僕はドアを開けるかどうか迷った。開けたら、何か良くないことが起きるかもしれない。しかし、未来を知った今、立ち向かわなければならない気もする。
「どうする…?」
田中Kの言葉が頭をよぎる。「トラブルを避けることもできるし、立ち向かうこともできる」。それが僕に課された試練なのか? 僕は決断を下した。
「すみません、受け取りは辞退します。今は出られないんです。」
そう言い、チェーンを外さずに応答した。すると、宅配業者の男は一瞬驚いた表情を見せ、無言で立ち去った。
その瞬間、スマホのケースが再び光り、画面に新しいメッセージが表示された。
「おめでとう。君は未来を選び、運命を変えた。」
「運命を変えた…?」
そして、田中Kから最後のメッセージが届いた。
「これで君の試練は終わりだ。このケースはもう必要ない。君が選んだ道は、正しかったよ。」
ケースが徐々に光を失い、静かにその役割を終えたかのように、普通のスマホケースに戻っていった。僕はスマホを見つめながら、確かに未来を選び取った感覚に包まれていた。
すべてが静かに元に戻り、僕は深く息をついた。
「これで、日常に戻れる…のか?」
スマホの画面は何事もなかったかのように、通常のままだった。そして、ピカピカだったはずのケースは、少し古びた青いケースに変わっていた――まるで、最初から何も変わっていなかったかのように。
物語の幕が閉じる。
ある朝目覚めるとスマホのケースが勝手に変わっていた。 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92
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