御神木
星宮和
第1話
森にひときわ大きな2本あった。
桜の木と途中から幹が二股にわかれている杉の木。
2本の木の傍には、社があった。御神木をお祀りしているものだ。
春になると、桜の木が満開で桜の花びらが風に舞う様は、それはもう綺麗で何時間も眺めていられた。
大人にとっては掃除が大変かもしれないが、子供にとってはたまらない遊び場だった。
地面に落ちる前にキャッチした花弁は幸運を運ぶとかいって、子供らはこぞって花吹雪の中を花弁を追いかけて小さな幸運を掴んで笑顔になっていた。
そんな春を彩る桜がある日伐採された。
あの満開の桜、桜吹雪、もう2度とみられないかと思うと、たまらなく寂しい。
あの大きな桜が御神木だと思っていた。
大きな森は、区画整理で小さくなり、大きな木は杉の木だけ。
お社が傍らにあり、しめ縄がかけられていた。
御神木は、桜じゃなくて、二股の杉の木だった。
土地の持ち主は自腹で御神木を残すために回りの囲いを作り、お社もそのままにした。
お役所に任せてしまうと、御神木が切られてしまうのが嫌だったからだ。
たった一本残った杉の木はたまらなく寂しかった。
森があったころは、同じくらいの背丈のいろいろな仲間もいた。
春になれば、桜の花を見にたくさんの人たちがやってきた。
枝に烏が巣を作っていたりもした。
今は、たった一本佇んでいるだけ。
暴風雨も一本だととてもたっているだけでも力がいる。
雷も一本だと落ちやすそうだ。
桜の木の花びらを追いかけて笑っていた女の子が、いつの間にかお母さんになっていた。赤ちゃんをベビーカーにのせて、足元の道を見上げながら散歩している。
「お母さんの子供のころは、ここに大きな桜の木があって、春になって桜吹雪になるのがとても楽しみだったのよ。あそこの大木が桜の木で中が空洞になってしまっているから、伐採されたみたい。今では御神木1本でさびしいね」
あの赤ちゃんも今では少年となって、自転車に乗っている。
月日は流れるのは早いものだ。
雷雨の日、あの少年が近くを杉の木の傍を通りかかった。
木の傍は、雷が落ちやすいからダメなのに。
雷があの子を狙っていると分かった瞬間、動くはずのない枝が雷を呼び寄せ自分の幹にまとわせた。
閃光と地響きがするほどの轟音。
幹は真っ二つになった。
あの子は自転車でたおれていた。
吃驚して倒れただけで、怪我はないようだ。
よかった。
最期は御神木らしかったなと、ふと思った。
御神木 星宮和 @hoshimiyakazu
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