第35話 【最終話】エリオ・フェリクスの最も幸せな旅立ち(34話二回目の初めて R18のため非公開)
フェリクス王国暦百七十二年、三月九日。
俺は魔法学校を無事、卒業した。本来なら卒業式を待って結婚する予定だったのだが、ジークはあの日、俺を三日三晩離さずに結局、婚姻の儀を終えたと発表せざるを得なくなった。
ベルキアのアシュ王子…王女のした事も明るみになった。なにせべルキアの船が泊まっていた港はジークが現れ、壊滅状態になっていたのだ。
フェリクスは港の復興資金をベルキアに請求した以外は、罪に問わなかった。ベルキアは竜が消えて以降、困窮しておりそれを慮った格好だ。
大きすぎる力はやはり、災いの元なのかも知れない…。
それもあって、ジークと俺はフェリクスを出て、世界を見て回る事にした。
「寂しくなってしまうわ!」
「ロゼッタ……、でもまた戻ってくるよ。竜の巣もあるし…」
「きっとよ?私達の結婚式にはきっと戻って来てね。それから、エリオが孕ったら必ず戻って来て!それまでにあの、大量の書物を解読しておくから!」
大量の書物とは、ジュリアスが残した日記のことだ。出産、子育てに関する記述があれば安心だろう。とロゼッタは言う。
俺とロゼッタの挨拶を待っていたジークは痺れを切らして、いつもより低い声で言う。
「そろそろ行こう」
「うん…。ロゼッタ!またね…!」
ロゼッタや、エヴァルト達に見送られて、竜体のジークは俺を背に乗せて空へ舞い上がった。
「おいエリオ、子育てにあいつの書物なんて不要だ。俺がやる」
「え?ジークが…?子育てなんて出来るの?」
「実際やっていたろう?三歳からエリオを育てていた」
確かに、ジークは三歳から俺の家庭教師として、俺を育てていた。しかし…。
「三歳までは何してたの?」
「…生まれて直ぐ、本当はお前を俺が育てたかったんだ。でも人間の子供は生まれたてはふにゃふにゃで、首も座らない目も見えない、乳はすぐ吐くし…。出来なかったんだ…。それで孤児院に行って子供を育てる事を学んで…。三年かかってしまった」
そうなんだ…。ジークはたしか、孤児院での教師実績が評判を呼んだことがきっかけで、母に採用されたけど、そういうことだったんだ。
「……苦労をかけてごめんね。でも、ありがとう。嬉しい…」
「いや、小さいエリオと一緒にいられたのは至上の喜びだった……。俺こそありがとう」
ジークはそう言って、フェリクスの上空ぐるりと旋回した。
春は花を摘んで、夏には川で遊んだ。秋は山に木の実を採りに行った。赤い、つぶつぶの実…美味しかった。冬はアルバスまで出掛けて雪遊びをした…。
「季節はあっという間に巡り…十を超えると『エリオ』の面影が色濃く現れ始めたた。俺は焦燥に駆られた。お前は以前、初恋の相手がいると言っていたし…俺以外を好きになってしまうかも知れないと…」
そうか、それであんなに瘴気を吐き出していたんだな?そんな心配、要らなかったのに。
「ジーク…俺、二百年分を挽回するにはどうしたら良い…?」
「………何もしなくて良い。生きていて、俺を見ていてほしい」
「ジーク…」
「俺と生きてくには、人間には悲しいこともある。それでも…」
ジークの精を受けて竜同様に長命になれば、親しい人との別れを多く経験する。そういうことを言いたいのだろう。
俺は返事のかわりに、ジークの身体に頬擦りした。
春は冬眠から覚める動物に会いに行こう。夏は海で泳いでみたい。秋は金木犀の香りを嗅ぐ。冬は霜柱を踏んで、氷の上を滑る…。
春夏秋冬、巡る季節を何百回…。
共に過ごそう。
一緒に居られなかった大きな穴をきっと埋める。これからの、日々の中で、お互いの命が尽きるまで。ずっと…。
そうすれば次こそ俺は、至上もっとも幸せな
エリオ・フェリクスのもっとも幸せな臨終~毒で死にかけたら何故か謎の美形に溺愛されました~ あさ田ぱん @pannomimiko
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