絶対に聞き取れない呪いの歌詞 VS 絶対に聞き取る魔法使い芸人

ホンマに歌なんか？

　お笑い芸人【まるかつ】の丸山は、相方の葛城と一緒に、狭い部屋に閉じ込められた。

　番組の企画らしいが。

　ふとっちょの方が丸山で、ガリガリのチー牛が葛城である。

「今回の『水曜日はディープスペース』の企画なんですが、『【堕天使のザクロ】の新曲、歌詞をすべて書き起こせるまで脱出できない生活』です」

　二人に対し、プロデューサーがそう言い渡す。

「ああ、堕天使のザクロの梅密っていったら、『クセの強い歌い方』ですよね」

　丸山が、リアクションを取った。

　堕天使のザクロの歌い方は、ファンの間でも「何を歌っているのかよくわからない」と話題である。

　結成二五周年ということで、四月一日の〇時に、特別プレミアム公開される。

　それまでの二週間で、歌詞をすべて書き記さなければならない。

「もし、賭けなかったらどうなるんです？」

　チー牛の葛城が、プロデューサーに聞いた。

「ギャラなしです。しかも、このCDを一〇〇〇人分、自腹で払っていただきます」

「うえええ。よっしゃ。これはやりますよ」

　丸山が、気合を入れた。

「でも、梅密って、変なウワサも多いですよね」

　梅密の言葉は呪われているとも言われている。

　下手に聞き取れてしまうと、精神を病むらしい。

　特殊な邪教と、密接な関係があるのではと言われていた。

「まあええやん。とにかく早く解いて、さっさと出よう」

　丸山に急かされて、曲を聞くことに。

　スマホを起動して、曲のデータを再生した。

『乙女座の、ヒビ割れ～』

「え、ちょっとまってくれ」

　丸山が、曲を止める。

「さっそく意味がわからん」

「梅密の歌詞は、頭で聞き取った以外の内容につなぎ合わせる必要があるんや」

　チー牛の葛城が、そう説明した。

「そうなんか？」

「せや。丸はアニソンしか聴かへんさかいな。わからんと思うけど」

「うん。電波ソングやったら、変な歌詞でも丸暗記できるねん」

「だから、お前が選ばれたんやろうな」

　梅密の歌詞は、ガチで聞き取りづらい。

　チー牛葛城がいなければ、流されるところだった。

「梅密の歌を、頭で理解したとおりに聞き取ってしまうと、頭がパニックになるらしいで」

「そうなんか。気ぃつけるわ」

「この歌詞の場合、乙女座って聞き取っている段階でダメやろな。それ以外の言葉で、聞き取ってみようや」

「乙女座乙女座……オートマティックとかか？」

「いや、オートメーション・オブ・ザってどうや？」

「ええな。それや！」

　その後、本当の歌詞は「オートメーション　オブ　ザ　ノウイング　ワン　デイ」だと判明し、二人は正解した。

　その後も、順調に歌詞を埋めていく。

　だが……。

『ベロベロベロベロ！』

「待て待て待て！　ホンマに歌なんか、これ!?」

　丸山が、発狂しそうになる。

　曲がアップテンポになって、歌詞も早口になった途端、何を言っているのかわからなくなってきたのだ。

「大丈夫や！　丸っ！　オレがついてる。一緒に歌詞を聞き取るぞ」

「どないしてん？　チー牛？」

「実は、ここだけの話しやねんけどな。この企画はダミーや。俺らは邪教を追ってる」

　プロデューサーもグルで、この企画は邪教の呪文を解読しているのだという。

　もし、何事もなかったらOK。この曲は流していい。

　しかし、曲になにかの呪文が込められていたら、世間に出すわけにはいかない。

　なので、ヤバくなったらチー牛側で対処してくれるそうなのだ。

「せやから、がんばってくれ。お前の耳だけが頼りやねん」

「よっしゃ。いくで。ベロベロやな？」

『ベルベラベロベロベルベラベロベロ』

「あかーん！」

　もうギブアップしたい！

　だが、よく聞いてみると、ベターと言っているのがわかってきた。

「モア　ベター　ベルモットや！」

「ベルモットな！　ベルモットいうたら、白ワインの一種や！」

「アニメにも出てくる名前やな！　この歌詞やと、ベルモットをもっとくれ、みたいな感じか！」

「せや！　これで全部埋まったで！」

「よっしゃああああ！　脱出成功や！」

　丸山が、床に倒れ込んだ。

　だが、天井をよく見ると「ドッキリ」の文字が。

「うわー！　お前ら、やってんな！」

　しまった、やられた。

　あんな迫真の演技をするから、本当だと思ってしまったではないか。

　しかし、何事もなかったから、いいかな。

　丸山は、二週間ぶりにシャバに出る。

　外界とも遮断されていたので、世間では何が起きているのかわからない。

　ビルの巨大モニターに、例の梅密が映っている。

　だが、新曲の発表ではない。

　梅密が、逮捕されていた。

　邪教と取引して、国家転覆を図っていたという。