ホラーを読む時、大前提となっていることがあります。
それは、作中の主人公と一緒になり、読者が発生する怪異とか凶事に対し、恐怖や緊張を感じたりすること。そうやって作中人物に感情移入する形で、安全な場所から怪異というものを覗き見る。それがホラーの主たる楽しみ方だと言えるでしょう。
―――でも、もしも作中の主人公が、『怖さ』を感じてくれなかったら?
本作の主人公は、祠を壊したことにより家族にどんどん不幸が訪れ、圧倒的な悲劇に見舞われます。
ですが、それに対しての反応は、通常の人間が持つものとはまったく別のものとなります。
どんなに不幸が起こっても、どんなに怖い事態が起こっても、作中人物がそれを怖がってくれない。そこから逃げようともしてくれないし、対処しようと動こうともしてくれない。
読者はただ、その姿を見守ることしかできません。
作中で起こる怪異に対し、主人公が『防波堤』として一番に怖がってくれない。それによって読者としては、何とも言えない寒気を感じさせられることになるのです。
作中人物が請け負ってくれるはずの不安や恐怖を、直接読者が請け負わねばならない。そんな風に巧みに『恐怖』という感情を煽りたてる、ホラー短編の逸品です。