第2章
「…ここまじでどこ…?」
あまり見慣れない部屋の作りだ。まず違うのは、布団に寝ていたことだ。そして、部屋は自分の部屋とは全然違う。床も木造ではあるが、何となく自分の部屋とは違う。ましてや昨日、枕元に置いて寝たスマホがない。というか、スマホが見当たらない、どこにも。
「…え、絶対令和じゃないやんこんなの」
令和にしてはあまりにも文明が進んでない。すると、ドアの向こうからドタバタと、慌ただしい足音が聞こえてきた。
「早く開けなさい、誰だ!」
部屋の前で女の人の声がする。部屋を開けたら痛いことされるのではないかと、とても不安になったが、無理やりこじ開けられるのはごめんだ。私は、そっとふすまを開けた。
「あのー…」
顔をそっと出そうとすると、突然手が襖の端をつかみ、一気に襖があけられた。
「誰よあんた!」
そこには、着物を着た女性が立っていた。私は今いるところが令和ではないことに気が付く。
「…一応確認ですが、今は何年のいつですか」
タイムスリップ系の小説でよくあるセリフが自然と口からこぼれた。
「あんた…何その恰好!誰よほんとに!」
着物を着た女性は私の質問に答えるより、まずは私が誰なのか知りたいらしい。
「…私は…橘香月です…えっと…ここはどこで、何年ですか…?」
私がそう聞くと、女の人は私を怪しそうな目で見ながらこう言った。
「今は、1941年よ…あんた本当に誰なの」
1941年…約80年ほど前に来てしまったのだ。
「すみません、信じられないかもしれませんが、私は2024年から来た人間です…」
私がそういうと、女の人は、驚きと不信の混ざったような表情をした。が、私の恰好から見て本当なのだろうと、少しは信じてくれたらしい。その後、居間に案内させられた。
「…それで、健也という方はどなたなのですか…?」
先ほど呼んでいた「健也」という人について聞くと、その女の人は「健也はね」と、話を始めた。
「健也は、私の息子。今はどこにいるか知らないけど、もしかしたらあなたのいた時代にいるのかもね」
そういうと、その女の人は立ち上がり、台所の方に行った。
「あ、そうそう。私のことは艶子さんと呼んでね」
艶子さんは、昭和を描いたアニメに出てくる服装をしている。本当に自分は今昭和にいることに、驚きを隠せなかった。最初は夢かと思った。しかし、妙にリアルな襖の感触や、声の聞こえ方からして、これは夢ではないだろう。
「にしても…そんな未来から来る人がいるなんて不思議なものね…」
「ちなみに、艶子さん、おいくつ…です?」
私がそう聞くと、艶子さんは「乙女に年齢を聞くなんて!」と、冗談っぽく言った後、「42よ」といった。
「息子の…健也さん?の年齢は…?」
そう答えると、艶子さんは少しつらそうな顔をして、こう答えた。
「…20歳よ」
20歳…もう成人しているのだ。私が今17歳。もうすぐ18歳になるくらいだから、だいたい2,3歳年上の人だ。
「…香月さん、あなたのいる時代は平和?」
艶子さんは私にそう聞いてきた。私はその時初めて理解した。昭和に来てしまったということへのワクワク感で、てっきり忘れていた。この時代は、「戦争」の時代。
「私のいる時代でも、世界のどこかでは戦争が起こっています。世界のつながりが強くなっていても、未だ戦争は無くなっていません」
私がそう答えると、艶子さんは悲しそうな顔をした。
「そう…それは残念ね…」
私はよくわからない罪悪感に襲われた。
「…それでも、戦争を無くそうという気持ちはたくさんの人が持っていますし、世界で議論もされています。戦争を無くそうと、皆努力していますよ」
私は、何の慰めになるかわからないことを言ってしまったと思ったが、艶子さんは少し笑顔になり、「良かったわ」と言った。
「…にしても、こんな時に息子と入れ替わりが起きてしまうなんてね…」
艶子さんはまた暗い顔をしたが、私が理由を聞く前に「さて!」と笑顔になった。
「せっかくだし、いろんな話をしましょう!私だって、未来のことを知りたいの」
艶子さんがそういうので、私は未来の話を沢山した。私の話を艶子さんはとても楽しそうに聞いてくれた。いつの間にか昼の時間を過ぎていたくらい。いろんな話が終わったときには、もう夕方だった。
「さて、そろそろ夕飯の準備をしなくちゃね。香月さん、あなたはそこで待ってて頂戴」
私は途端に思い出した。私のいた時代ではどうなっているのだろうと…
「お母さん、混乱してないかな…」
私はもう一度、箪笥の上にある写真を見る。そこに写っている男子は、いかにも昭和の恰好をしている。おとなしそうな顔をしていて、意外と来ている服はぶかぶかであった。
「…入れ替わりをするだけじゃ物足りいな…いつか会えないかな…」
私はぼそっと口に出した。そもそも、何がきっかけで入れ替わりをすることになったのかわからない私は、明日になったらまた入れ替わりをしているのではないかと、そう考えていた。
「ごちそうさまでした」
私がそういうと、艶子さんは「はーい」と、嬉しそうな声で言った。
お風呂にも入り、寝る準備を終えて、私は居間に行く。居間には艶子さんがいた。
「あら、香月さん、もう寝る?」
「そうですね、そろそろ寝ようかと思います」
私がそういうと、艶子さんは、私が最初にいた部屋に案内してくれた。
「ここで今日は寝るといいわ。それじゃあ、また明日ね」
艶子さんはそういうと、襖を閉めてくれた。
「おやすみなさい」
私がそういうと、まだ部屋の前にいた艶子さんが「おやすみなさい」と返してくれた。
「…明日、またここにいるのかな…?」
そんなことも考えたが、私はいつのまにか寝てしまった。
…ピ…ピピッ…ピピピッ…
朝からアラーム音が騒がしい…アラーム?
「…アラームって…」
私はゆっくりと目を開ける。そこは、私のいた時代のベッドの上だった。
「…戻ってる…?」
夢だったのか、そう考えたが、夢じゃないことに気が付いた。私の机には、一枚の紙がおいてあり、そこには、「健也」と書かれていた。
「手紙…」
手紙には、簡単な自己紹介と、昨日起きた事が書かれていた。
「…本当に入れ替わってたんだ」
私の記憶も確かに残ってるし、手紙もある。
私たちは、本当に入れ替わっていたことを知った。
「…会ってみたいな…」
私は部屋のドアを開け、下に降りると、お母さんがいた。
「…香月…?」
「…おはよう」
お母さんは涙目になりながら、私に抱き着いてきた。
そして、昨日何を話したか、何があったかを話してくれた。
そして、私は知ってしまう。
「健也さんが…出兵…するの?」
秋明けの菊、何処の君へ 椿ユメ @kamitubakiyume
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