秋明けの菊、何処の君へ
椿ユメ
第1章
木の葉も枯れ、入道雲も見えなくなっていた。秋、高校二年生。夏休みを終えて、やる気のない同級生たちと共に登校する。そんな自分もやる気はない。蝉の煩さは消えたが、それでも残暑はある。
「眠い…」
目をこすりながら、靴箱まで歩く。久しぶりの授業、持って帰っていた教科書を持ってこないといけないため、肩が痛くなった。教室には、夏休み中にほとんど顔を合わせることのなかった同級生が沢山いた。
「おはよー…かえろー」
私が何も書かれていない黒板をジーっと見ていると、友達の夢佳が話しかけてきた。
「おはよー、かえっちゃだめでしょ」
夢佳は「ちぇっ」とふてくされて前の席に座った。
「夏休みどうだった?」
私が夢佳に聞くと、夢佳は遠くを見つめながら
「最後の夏休み、最高だったよ…」
と、はるか昔の話のように話した。
私たちはその後、夏休みの話を一通りして、朝のホームルームが始まるまで時間をつぶした。
ホームルームが終わり、今日の日付が黒板に書かれる。
「9月1日」
とうとう高校生活もあと半年だと、少し寂しくなった。
「今日は戦後の日本について話すぞ」
夏休み明けの最初の授業は歴史。正直何故最初が歴史なのか、歴史が苦手な私は教科書を開くだけ開いて窓の外を見ていた。ほとんどの生徒が眠り株って話を聞いている中、一人だけ真面目にノートを取りながら聞いている生徒がいた。後ろから見ていると、個別授業をしているように見えた。夏休み前も同じような感じで授業を受けていたので、懐かしい感じがした。
チャイムが鳴ると同時に寝ていた生徒が顔をあげた。先生はその光景を見て苦笑いを浮かべていた。
「歴史ほぼ寝てたわ…」
夢佳が休み時間に話しかけてくる。
「でも、一人だけいつも真剣に聞いてる子いるよね。夢佳知ってる?」
「寝てるからわからない」
ごもっともだ。夢佳は寝てた、ましてや毎回。
「うん、そうだね…」
「あ、次移動教室じゃん…行こう」
夢佳が準備を始めたので、私も準備をして、夢佳と一緒に教室に行った。
一日が終わり、私は部活に行く。私は文芸部に所属している。最近書き始めた小説があるから、午後の授業は正直その話の続きを考えていて、授業を一切聞いていなかった。部室にはまだ誰もいない。いつもの席に荷物を置いて、今日の作業に取り掛かる。私が今書いている小説は、大好きなミステリー小説だ。どんなことが起きるのかを考えながら書くのが大好きなのである。私は熱中して書いていた。ストーリーをここからどうするか、このキャラクターはここでどんなことをしでかすのか、いろんなことを考えて書いていたら、いつの間にか部活の仲間がいた。
「あんた、相変わらずの集中力ね…気付いてなかったでしょ」
部長で同級生の京菜が口を開く。
「先輩、すごい集中力…!憧れます!」
次の口を開いたのは、後輩の千鶴だ。
「二人ともいたの、やほー」
私が気が付いていなかったと認識すると、京菜はため息をついた。
「ドアもがら空きで作業してたからね、あんた。まったく…」
「ごめんごめん、夢中になってたわ」
京菜は「まったく…」と、もう一度小声で言うと、京菜もいつもの席に荷物を置いて、作業に取り掛かった。それにつられて千鶴もいつもの場所で作業に取り掛かった。
作業がある程度終わると、いつの間にか下校時間間際になっていた。
「そろそろ帰ろうか」
京菜がそういうと、千鶴やそのほかいつの間にかいた後輩や同級生が「はーい」と返事をした。
京菜と途中まで一緒に帰っていると、「あんた」と、京菜が話しかけてきた。
「あんた、ほんっと集中力すごいわね、あの後他のみんなが話しかけても一切返答もしなかったでしょ」
「あれ、ほんと?全然気が付かなかった」
京菜は頭に手を置いて「だめだこりゃ…」と小声で言った。
そのあとは何気ない話をして、自分たちの家に帰った。
その夜、私は歴史の勉強をしていた。
「戦後…なんかいろんな言葉出てくるなぁ…」
歴史は暗記、少し苦手だ。
『歴史は背景を意識して覚えるといいぞ』
以前、先生が言っていたことを思い出した。せっかくなので、戦後までの出来事を見るとした。
一通り勉強を終えると、私はベッドに横になった。頭がパンクしそうだ。
「もう、寝よ…」
私はそのまま電気を消して、眠りに入るとした。
「…や…んや…けんや…健也!」
誰かが部屋のドアを叩く音が聞こえた。
「健也…?」
知らない名前だ。私が「誰よそれ」というと、ドアを叩く音は無くなった。
「私の名前は香月ですー、健也じゃないで…しょ?」
私は気が付いた。今いるのが自分の部屋でないこと、そして、話しかけているのが自分の親ではないこと。
「…は?」
私は状況の理解ができないまま、その場に固まった。
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