朽ち果てた墓碑
枕崎 純之助
朽ち果てた墓碑
「誰か事故で亡くなったのか……」
いつもの都道沿いの散歩道を歩いている時に僕はそれを見つけた。
交通量のそれなりに多い都道脇のガードレールのすぐ
お供えの缶ビールやジュース類などと一緒に。
おそらくバイク等の交通事故で、運転者が亡くなったのだろう。
時折見かける悲しい光景だ。
僕は見知らぬ誰かの死に少しばかり胸を痛めたものの、特に立ち止まることはせずにその場を歩き去った。
翌日もその翌日もその散歩道を歩いたが、供花やお供え物は徐々に少なくなる。
人の死も時が
だが、初めてその現場を見た日から数週間後、その場所には木材で作られた50センチほどの高さの
「誰かが作ったのか……」
プロの仕事というほどの出来ではなかったが、
おそらく亡くなられた方のご家族か友人などの親しい人が作ったものだろう。
事故でこの世を去ったその人はきっと
それからも毎日その道を通るが、以前ほど多くはないものの、供え物が尽きることはなかったからだ。
そして
写真は
まだ若い男性だ。
そしてその写真のすぐ下に貼られたメッセージカードにはこう書かれていた。
『皆さん。息子のためにやさしさをありがとう』
故人の親御さんが息子を
僕は元気だった若者の写真を見て悲しくなった。
写真の中の若者は笑顔を見せ、生命を
自分が亡くなることなんて考えもしなかっただろう。
しかし命は失われ、彼の人生は永遠に幕を閉じたのだ。
それからしばらくして、僕は引っ越しをしたためにその土地を離れ、その散歩道も通ることはなくなった。
ただ時折、仕事でその道を通ることもあったので、その際は必ずその
やがて年月は過ぎていく。
5年経ち、10年経ち、新しかった
写真も色あせ、メッセージカードは字が
その頃にはもうお供えをする人もいなくなってしまったようで、
そして15年ほど経った頃、そこを通りかかった僕は思わず立ち止まった。
おそらく心無い誰かがいたずらに破壊したのだろう。
明らかに人為的に壊されたような有り様だった。
その後しばらくの間、
事情を知らない者がそこを通りかかっても、それがかつて
やがて20年以上が経過した頃には、廃材はすべて片付けられ、何も無くなっていた。
ここにあった「死」の
これが風化なのだと僕は思った。
ここを通りかかる人で、あの
僕のようにそのことを記憶に残していた人もやがてはいなくなっていく。
時の流れと共にすべては忘れ去られていくのだ。
誰かがそこにいたことも。
誰かの死も。
だから僕はその記憶をここにこうして留めておくことにしたのだ。
そうせずにはいられなかったから。
そうせずには……いられなかったんだ。
朽ち果てた墓碑 枕崎 純之助 @JYSY
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