わたし、いわくつきにんぎょう?

真衣 優夢

わたしのおはなし




 わたしのなまえは、

 フィロアレテー、です。



 ことば、すこし、うまくなったかな?

 まいにち、オフィスで、きいているの。

 みんなのこえ、ことば、おしゃべり。

 たのしいな。うふふ。



 わたしのいるところは、ええと、

 なんとかじむしょ。



 りゅーのすけが、なんでもや、みたいなところ、といっていたけど、

 わたし、なんでもや、わからないよ?



 りゅーのすけは、わたしのもちぬし。

 わたしをひろってくれた、にんげん。

 わたしになまえをくれて、いばしょをくれた、だいすきなにんげん。



 このじむしょ、オフィスは、へんてこなにんげんがいっぱいいる。



 かぜを、あやつったり。

 ほのお、だしたり。

 とおくを、みたり。

 いろいろ。




 コノヨ ノ カイケツ デキナイ モノ ヲ

 オカタヅケ シマショウ




 って、おしごとをしている、みたい。



 りゅーのすけは、したっぱ。

 ペットのツチノコさんのおせわ、いつもしてて、ひるねもしてて。

 なまけものー。

 おそうじ、しょちょーさんに、いわれてた。わたし、しってるよ。



 りゅーのすけは、れいばいたいしつ。

 わたし、はいろうとおもえば、りゅーのすけに、はいれる。

 でも、うまくうごかすの、むずかしいから、やらない。

 りゅーのすけにだっこしてもらうのが、いいの。





 なまえのなかった わたし

 うまれてすぐ わたしは はこばれて

 おおきくて くらい そうこの なか



 にんげんが いうの




『限定品だから買い占めたのに、思ったよりはけねえや。

 倉庫の維持費がきついから、このへんの古いのは崖下にでも捨ててこい』




 ぜんぜん わからない



 ここで よんかい ふゆがきたから

 わたしは よんさい



 わたしは じゃま みたい



 わたしより むかしから いるモノたち は





 怨嗟の声を上げていた。




 こんな人間の手に落ちなければ

 私は 僕は 俺は 我々は

 求めてくれる人の手にわたり 愛されて 大切にされて

 過ごしていたはずだった



 お前達を 恨む

 お前達を 呪う

 お前達が 我々を捨て 我々が粉々になっても

 この怨みは けして消えぬと思え




 わたし は よくわからなくて

 でも

 からっぽの わたしに

 そのこえが すいこまれて しみこんで

 わたしは まっくろになっていった




 ごとん ごとん がたん

 わたしたち を いっぱいつんだ くるま



 わたしは まがりかどで おちた


 わたしだけ おちた




 にんぎょうのはこを ふしぎにおもって

 ひろってしまったのが




 りゅーのすけ。



 わたしの、もちぬし。

 ちょっとおまぬけな、わたしのもちぬしなのよ。




 わたし、いっぱいあばれたんだって。

 ぜんぜん、おぼえていない。

 だって、わたしのなかにあったのは、わたしのおもいじゃ、ないもん。



 わたしは、こわされるはずだったんだって。

 『おはらい』の、ほうほうとして、いっぱんてき?



 りゅーのすけは、わたしをみつめて、いったの。




「お前に罪はねーよな。

 その転売ヤー、ぶっ潰してやるからな!

 だからさ、ここで壊されて終わるとか、……お前、なんか悲しいじゃんよ。

 俺が責任もってお前の保護者になってやる。

 だからさ、

 解放されろよ。その黒い声から」




 わたしは、わたしのこころが、あるようで、なくて。

 くろいこえは、わたしのものであるようで、なくて。



 どうしようもなくて、こまってたわたしに、

 りゅーのすけが、なまえをくれたの。




「お前の名前は、フィロアレテーだ。

 格好いいだろ。

 確か、ええと、どっかの国の言葉で、

 『道徳を愛せよ』…って意味になる、たぶん。


 フィロアレテー。

 道徳を無視した悪いやつをやっつけようぜ。

 お前は、この名前のとおりに生きろ」




 ぱあん




 わたしは、

 フィロアレテー

 になった。




 いまのわたしは、じむしょの、インテリアのひとつ。

 それが、おしごと。



 たまに、りゅーのすけにも、ついていく。

 だって、りゅーのすけは、すぐのっとられちゃう。

 わたしがね、ぺしぺししておいだしたり。

 さきに、りゅーのすけにはいって、もうはいれなくするのよ。



 えらいでしょ?




 だれもいないよる、くらいじむしょ。

 でもね。

 あの、そうことは、ぜんぜんちがうの。



 ここはね、みんなが、わたしをわかってくれるから。



 あさになって、おはようがきこえても、おへんじできないわたしだけれど。

 みんな、わたしにわらってくれたり、なでてくれたり、するんだよ。




「おお、フィー。

 お前また、自分で着替えたのか?

 髪型もアレンジしやがって。

 どーやってんだか謎だぜ」




 おはよ、りゅーのすけ。

 それはね、ないしょ!





 透明な4つの翼を持ち、水晶のビーズが瞳にはめこまれた、限定50体、30cmの妖精人形。



 彼女は今日もご機嫌に、インテリアの仕事を全うしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

わたし、いわくつきにんぎょう? 真衣 優夢 @yurayurahituji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画