すべてのはじまり





「えーと、何でついてくる?」



保健室に着いてから、私はため息混じりにそういった。あの後じゃあね、と踵を翻した私の後ろにゾロゾロと着いてきて、初めは行く方向が一緒なのかな?と考えていたが、保健室の近くへ来た時に流石に気がついた。


足を止めて振り向くと、彼らは顔を見合わせる。



「怪我させてもーたからちゃう?」



自分でも不思議そうに首を傾げて笑う黒髪に、アンタが先頭で着いてきてんだけどな。と心の中で言い返す。

まぁ着いてきてもいいけど、人と行動するってことに慣れてないから何をしたらいいのか、何を話せばいいのかが全くわからない。



「保健室は、この先かな?」



「あぁ、」



「とりあえず手当しようか。」



私の困った様子に気が付いたのか、赤い髪の男が先を指さして聞いた。

もう血なんて乾いてるし、正直こんなの痛くも痒くもない。



ただあの空間にあまり長居はしたくなかった、そういう理由だけで保健室に来ただけ。


もう追い払うという選択肢を捨てて、失礼します。と声をかけて保健室の中にはいる。


保健の先生はおらず、中はガランとしていた。



「いけるん?いたくないん?」



どこにあるのかはだいたい分かっているので、絆創膏と念の為消毒を取り出して、自ら鏡を見ながら手当していると、後ろに黒色が立っていた。



「そうだね、全然。」



鏡越しにその髪と同色の黒を捉えて、ペタリと絆創膏を貼り付ける。

そっか、と安心したように笑った彼は傍にあったパイプ椅子に腰をかけた。


ゼンや山口波音は流石と言うべきか、椅子をクルクルして遊んだりベットへゴロゴロと寝転んでいたりして遊んでいる。


それは私が手当をし終えても、そのままで。

帰らないの?という気持ちを込めて、黒髪へ瞳を受けると、彼は僅かに目尻を下げて笑った。



「ごめんな、問題起こして。」



「ああ、気をつけてね。先生たちも含め結構敏感になってるから。」



'アレ'から1年。

学校はメディアを気にして慎重になってるし、彼等は退学処分だと報じられていた。

校長や、教師たちはその処分に全員が賛成していたのだ。だが、理事長は。

理事長だけは、反対を上げそれを押しきった。


私の言葉にへにゃり、と情けない笑みを見せた黒髪はもう一度ごめんなあと謝る。



「悪かったな、もうココには来ねェようにする。」



クルクルと椅子で遊んでいたゼンが口を開いたのは、黒髪の謝罪とほぼ同時だった。

淡々と何も籠ってやしない声音に、私はクリーム色の髪をした彼を一瞥する。


ああ、感情を押し殺しているのか。


グッと悔しげに噛み締められた口とその瞳に映した微かな悲しみ。



これがあの事件が残した大きな傷跡、か。




「あー、貴方たちは知らないと思うけど」



私はゼンのその言葉に返事はせずに、全員を見渡した。言いたいこと、というか、この学校での立場上言うべきことがある。

窓ガラスを割り、怪我人が出る可能性だってあった。



だから彼らにこの学校のトップだから、言うべきことがある。




「私は、生徒会長です。」



まぁ、貴方は知ってると思うけどね。

と付け足して山口波音にニッコリと笑った。

山口波音も、コチラを見返して笑ったが目は1ミリも笑っていなかった。

私が一体なにを伝えたいのかを必死に探っていた。


ま、私はそう簡単に探らせたりはしないけども。



「で?それがなに?退学にする?」



山口波音は淡々と温度を感じさせない声音で真っ直ぐにコチラを見据える。

その瞳は冷え冷えとしていて、其れは普段の学校生活の中では見ることの出来ない瞳だった。


やっぱり、コイツは嫌いだ。


口角をグイッと持ち上げて、ニヒルに笑う。



「残念、」



そう言って、山口波音からゼンへと視線を移す。



「あなたには、この怪我の責任を取ってもらう。」



静かな部屋に私の声だけが響く。

その空間にガタン、と焦ったような音が聞こえ、そちらへ瞳を向けた。

そこには先程まで私を心配する素振りを見せていた赤い髪の男が、怒りを露わにして立ち上がっていた。



「シン、」



彼が何かを言おうと口を開くが、黒髪の男に名を呼ばれ、ぐっと言葉をかみ殺した。

黒髪の彼は結構冷静なんだな。

山口波音もシンと呼ばれた赤い髪の男も怒りを滲ませてコチラを見ているのにも関わらず、当本人や黒髪男は冷静に私の言葉を待っていた。



「この学校の生徒会は普通の生徒会とは違ってね、学校の事を全て任されているの。」



黒髪はその言葉にもゆるりと口角を持ち上げただけ。



「だから、生徒会長の命令は絶対なんだ。」



ゼンがキィ、と椅子から立ち上がる音がする。

其れに怒りは感じられない、ただただ私の言葉を待っているような様子。



「明日から夏休みを抜いて、3ヶ月間。貴方たちには学校に登校してもらう。」



有無を言わせない、強い口調でそう言いきった。





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