輝き

バタバタと先程の教師達のような、騒がしい足音が後ろからついてくる。

無視を決め込んで廊下を突き進んでいたが、おい!!と呼ばれたことにより足を止めた。


私に追いついた彼はハァと息を整えている。


私は周りを一瞥したあと、体をくるりと反転させて彼を見すえた。


私より少し明るいクリーム色をした髪に、耳には沢山の光るピアス。

もう誰が見ても、一発でわかる不良だ。



「なに?」



周りにギャラリー達がこちらの様子を伺っており、無視することも出来ずに追ってきた人物をじっと見すえた。


意外だな。どうせ、あの黒髪の男が負ってきたのだろうと思っていたが、予想は外れた。

ゼンはもう一度はぁと息を整えて、私を鋭く睨みつけてから、そっぽを向いた。



「わ、悪かった」



またも飛び出した来た以外な言葉に、一瞬だけ目を見開く。まさか謝罪が先に来るとは。

私の予想では、開口一番はどうして庇った?だと思ったから。

謝るのはそこの餓鬼だと、挑発するようには言ったものの、正直謝るのは『バケモノ』と言う言葉をぶつけた生徒だと思う。



「別に気にしてない。」



少し頬が緩むのが分かる。

嬉しい。アノ不良たちが、しっかりとしているのが知れて。ただただ嬉しかった。

理事長は、彼らのことを『ゴミクズ』だと言う。

私はその言葉には賛同出来なかった。

だって、私の目でその事件を見たわけじゃないしね。


それにゼン自身のことではなくて、仲間の為にあそこまで怒りを顕にできる男に私は柄にもなく惹かれてしまった。

だって、綺麗だと思ったから。

人のためにそこ迄怒ること、私にはもう出来ないから。羨ましい、とさえ思った。



そして、そう思った時には体は動いていた。



まあ、それで動けたのは不良が怖くないってのもひとつの理由だ。そりゃ私が'普通'の女の子なら、多分怖がって周りと同じ反応をしてたと思う。



「あと、庇ってくれて、あり、がとう。」



小さな声でそう告げた彼のピアスが光る耳は、赤く染まっていた。

可愛いとこ、あるんじゃん。もっとそういう所を表に見せてみたらいいのに。

周りに私にそうやって謝ってることを聞かせると、幾分見る目は変わると思うけどなあ。



「庇ったわけじゃないから。」



緩む頬を必死で抑えて、嫌そうに眉を歪めるとざわりと周りの子達の声が大きくなる。

また騒がしい足音が聞こえて、ゼンの後ろからカラフルな頭が現れる。



「アキちゃぁ~ん!」



ゼンの後ろからこちらを覗き込んで、ヒラヒラと此方に手を振るシルバーの髪をした男。

コイツとは以前から面識があり、彼等の中で1番年下らしく'事件'には関係ないとのこと。


だから毎日学校に顔を出しているし、廊下を歩いていても他の生徒と話したりしているのをよく見かける。



ただ私はコイツが、山口波音ーヤマグチナミトーが苦手だ。

ウザイ消えろ、と言う気持ちを込めてギロりと山口波音を睨みつける。



「お~こわっ」



物怖じもせずに、そう笑った。ホントムカつく。

その笑顔が、嫌いだ。

たいして笑ってもないくせに、笑顔を貼り付けて。


だいっきらいだ。



「庇ってくれて、嬉しかった。」



私が山口波音を睨み続けていると、ふとそんな声が聞こえた。

私とゼンの会話が聞こえていたのか、黒い髪をした男が嬉しそうに頬を綻ばせて言う。

その瞳が嬉々とした色を宿しており、ウソはないと感じさせる。



「勘違い、するなよ。」



真っ直ぐなその視線に、少したじろぎながら答えると黒髪の男はどこまでストレートな男なのかゼンの横に並んで、また嬉しそうに目を細めた。


その姿は何処か大型犬を思わせるような何かがあり、少し頬が緩むのがわかった。


彼はそんな私の空気に、1歩近づき。



「なら勝手にしとくわ、勘違い。」



その訛った声に、驚きで動けなかった。

コイツはなんなの、馬鹿なの?

目を見開いて、固まった私の瞳と彼の其れが絡み合って、満足そうに細めたあと私との距離を詰めた。



「ありがとう。」



ポンと、頭に手が乗せられて綺麗な顔に無邪気な笑みが乗せられた。






『…ありがとう、アキ』






それが一瞬、あの子と重なり思わず笑ってしまう。

ゼンたちが少し驚いたのが目に入る。




'最低な不良'?'如何しようも無いゴミたち'?




何を言ってるんだ。



私には




仲間の為に我を忘れるほど怒り、ありがとうと仲間の為に感謝できるこの人たちが、




真っ直ぐでこの場にいる、





誰よりも





酷く眩しく輝いて見えた。




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