夏樹side


夏樹side



「理事長、」


黙り込んでしまった俺たちにチラリと目を向けたアキ、と呼ばれる彼女はゼンと理事長の間に入り込んだ。そのまま、にっこりと笑って理事長を見据える。


そして、頭を下げた。


「今回は、私の責任です。」



ザワり、と教室が揺れる。

どうして?何も悪くないのに…!アキさん!!!と様々な声が響き、理事長は目を丸くして彼女を見つめた。その瞳がかつてないほど優しく、緩んでいて。


何者なん?この子。


彼女は教室の人達を見渡して、本当に綺麗に笑った。

それは見惚れてしまうほど、綺麗な笑みやった。



「私が'ゼン'を怒らせてしまったの、」



言葉が出やんかった。

この子はなんもしてない。ただゼンが俺の為に怒って、なんも関係ないこの子に向かって怒りをぶつけただけやのに。

なんで、ゼンを庇うん?


しかも、'ゼン'なんて関係を匂わせるような呼び方をして。



「そうか。一ノ瀬、後で理事室へ。」



理事長もこの子にはなんも言えんのか、呆れたようなため息をひとつ零してからほかの教師を引き連れて、教室から出ていった。


俺たち全員が唖然とその様子を眺めていた。



「皆、騒がせてごめんなさい。保健室に行ってくる。」



綺麗な声でそう告げて、ペコリ、と頭を下げた後、彼女は教室を後にした。

アキさん、と心配そうにつぶやく声に、笑みを残して。



「ま、てよ…!!」



唖然、とその様子をただ眺めていたゼンが声を上げて駆け出す。追いかけていったんやろうな。


そりゃ、俺達も気になるわ。

なんで庇ったんか。

事件の話はこの学校におる限りは、耳に入ってるはずやのに。


残された俺たち3人も顔を見合わせてから、ゼンの後を追った。



.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る