第6話
帰ってから、私は畳の上でごろごろしていた。
「それで……なんでテメェは何事もなかったかのようにぐーたらしてんだコラ」
「何事もなかったからに決まっていよう。最終的に、この身体には傷一つついていない。それでいいではないか」
しかし、心配してくれたその気持ちを無下にするわけにはいかないな。
仰向けになって、葵くんへと両手を伸ばす。
「それじゃあお詫びだ。きたまえ。なでなでしてあげよう」
「んなことできる状況じゃねぇ! テメェが俺に飯作れって言ってきたんだろうが!」
葵くんはキッチンから顔を出して、木べらを片手に怒ってる。うんうん、これだよこれ。私が好きな物語は、こういうのほほんとしたラブコメなのだよ。
「もうそろそろ飯作り終わるし、我慢も限界に達してる。聞いてるからさっさと話せ。何があった」
「かくかくしかじか」
あらかた話したところで料理は全て運び終わり、私は身体を起き上がらせる。
なるほどうどんか。葵くんにとって現状私は病み上がり。なるべく食べやすいものにしてくれたんだね。
「後輩くん。私の食事量は知っているだろう? これでは少々物足りない」
「これはあくまで念のためだ。どうせ足りねぇとか言ってくると思って、かつ丼やらなんやら用意してる。それ食って問題なかったらおかわりしろ。雑食だし、ジャンルごちゃごちゃでも食えるだろ?」
「さすがだよ! それでこそ愛すべき葵くんだ! それじゃあ、いただきます!」
「召し上がれ……んで、何の話だったっけか……何から突っ込めばいいか分からん。とりあえず、その探偵はどうしたんだよ」
こんな出汁、ウチにあったかな? 葵くんが家から持ってきたのだろうか。
「勝くんなら家に帰したよ。こちらでいろいろ検証してから今後の方針を決めると言ってね」
彼も冷静ではないことを自覚している。今日の内はおとなしくしていてくれるだろう。
「そうだそれ、今後の方針。んなでけぇ問題、どうやって対処するんだ」
「それは私も決めかねていてねぇ。何から手を付ければ良いのか分からない。ただ、最終目標は決まっている。少女を救い出しつつ、政府の問題も解決すればいい」
しかし、その為の情報が圧倒的に不足している。問題は何から調べればいいのかだ。タイムリミットなんかも気になるところ。できるだけ効率的に事を進めなくては、気づいたらバッドエンドなんてこともありえるだろう。
だからこそ、葵くんを呼んだ。
「最終目標っつってもよ。そもそも政府の抱えてる問題ってなんだよ」
「よし、それを調べよう」
「は?」
「何も分からないから、キミに客観的な立場で聞いてもらい、結果出てきた疑問点を順に調べようと思ったわけさ」
実際、葵くんは良いところを突いてくれた。確かに最終目標を明確にしなければ、対策のしようがない。
あとはどうやって調べるか。これは探偵である勝くんに委ねよう。私じゃ経験不足がすぎる。
「……雑だなぁ……まあ、テメェが決めたことなら大丈夫なんだろうけどよ」
「おっと、後輩からの信頼が厚くて照れそう」
「うるせぇ。それよりも、もう一つ急ピッチで調べなきゃいけねぇことがあるんじゃねぇか?」
ほう、それほど重要なことが。一体なんなのだろう。
「その『物語を作る本』ってやつ、どれだけのことができるんだ。それ次第でこれからどうやって戦うかが変わってくる」
やっぱそうだよねぇ。調べなきゃいけないよねぇ。でも調べるのめんどいんだよねぇ。
「杖を持ってモンスターにも通用する魔法が使えるようになったであろう勝。分かりやすいな。戦うのにこれ以上の情報は必要ねぇ。対してテメェの能力は『本に書いたことが現実になる』っていう、ぶっ壊れチート能力だ。ハッキリ言うぜ。その能力、使い物になるとは到底思えん」
「代償、だね。私の身体が壊れることを防ぐ為にも、紡ぐことのできる物語の範囲を調べなければならない」
そして、その代償によっては、無理矢理目標を達成する手も選択肢に入る。
「俺を呼んだのは今後の方針を決める為ってのもあるだろうが……本命は別」
「さすが話が早い。というわけで……食事が終わり次第、いろいろ試してみる。多分倒れるから、介抱頼むよ」
葵くんは舌打ちした。私は笑いつつ、どんぶり片手にお代わりを取りに向かった。
小説家少女はチート武器『ストーリーを紡ぐ本』で裏世界でも最強……のばすが、代償デカすぎて使えない 夜葉 @yoruha-1
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