我が家の冷蔵庫が気まぐれになった話
彩霞
我が家の冷蔵庫が気まぐれになった話
我が家には、オフブラックっぽい色をした冷蔵庫がある。使い始めて十数年。
これまで、不満という不満は特になかった。あったとしても、夏に製氷室に入っている氷がちょっと溶けて、もう一度凍った際に大きな
しかし今年の夏、冷蔵庫が気まぐれを起こしたのである。
猛暑日が続いたある日のこと。急に、作られる氷の数が減ったのである。
これまでは製氷室がいっぱいになるくらいに作られていたのに、その半分もない。しかもその半分のうちさらに半分が、一度溶けてくっついているため大きな塊となり使い物にならなくなっていたのだ。
とりあえず私はその日の夜、製氷室に入っていた大きな塊を取り出した。そのあと氷を作るための給水容器水を足して「製氷」というボタンを押し、強制的に冷蔵庫に氷を作らせようとしたのである。
だが、夜に「製氷」ボタンを押した翌朝、出来上がっていたのは二十個弱。作られないよりもマシだが、我が家の消費量を考えるとギリギリだ。連日の暑さを考えると、もう少し余裕を持ちたいところである。
そのため、平日は朝と夕方、休日は可能な限り「製氷」ボタンを押すことにした。こうすれば「製氷」ボタンを押すごとに作られると思ったのである。
だが、その予想は甘かった。
「製氷」ボタンを押したとしても必ずしも氷を作ってくれるわけではないのである。一応冷蔵庫の仕様として「製氷」が終わるとランプが消えるようになっているのだが、氷を作っていないにもかかわらず、ある程度の時間が経つとランプを消すこともあるのだ。
就業してくれない冷蔵庫に、家族は「冷蔵庫のストライキ」だと言った。となると、冷蔵庫は何かしら不満があるということだろう。
では、何が不満なのか。
推し量るのはいいが物言わぬ機械ゆえ、人とは違った難しさがある。
色々考えた末、もしかすると水がぬるいのが問題なのかもしれないと思った。暑い夏は、蛇口から水ではなく風呂場で使うようなお湯が出てくる。もちろん、それを給水容器に入れることはないのだが、しばらく出した水も冬のようにキンキンに冷たいわけではない。
そのため、給水容器に入れる水を一旦冷蔵室で冷やしてから入れてみることにした。これならば水が冷えるまでの時間を短縮することができて冷蔵庫の負担も減るのでは……――と思ったが、結局これも上手くいかなかった。
冷蔵庫がこのような調子なので、製氷皿を使って冷凍室で氷を作るという手も考えた。
だが、我が家の夏の冷凍室は満杯である。誤解のないように説明をしておくと、食材が豊かというわけではない。元々冷凍室が小さいのである。その上夏なので食材を悪くしないように冷凍室に入れるため、必然的に一杯になっているのだ。そのため製氷皿を入れる
これらのこともあり、製氷室で氷を作ってもらわないと困るのである。
もはや我々人間にできることは、「製氷」ボタンを押し続けることだけである。
しかしそんな日々を繰り返しているうちに、だんだんと冷蔵庫が氷を作らない理由が見えてきた。何故なら少し涼しい日はちょっと多めに氷を作ってくれるからだ。それを見ていると「暑いときに氷作れとか言うな」と言われているような気がした。
もしそうであるなら気持ちは分からないでもないが、こちらも氷を作ってもらわねば困るのである。そのため私は時折要求が無視されることがあっても「製氷」を押し続け、何とか氷が足りなくなることなく夏を乗り切った。
暑さが和らぐようになった今日この頃は、氷の売れ行きも大したことがないということもあり、製氷室にはたっぷりと氷が蓄えられている。これを夏の暑い日に平然とやってほしかったというのに、我が家の冷蔵庫は涼しくなると元気に氷を作るらしい。
そして、最近驚いたことがある。
冷蔵室に入れていたいただきもののシャインマスカットの実の周辺に、氷の塊ができていたのである。私は「は?」と思った。シャインマスカットは冷凍室に入れていたわけではない。冷蔵室に入れていたのだ。
冷蔵室に入れっぱなしにしていたものが凍ることは確かにある。しかし、そのシャインマスカットは前日に二度ほど冷蔵室から出しているのだ。そこから半日も経たずして立派な氷を作ってしまったのである。
製氷機で氷を作るのは
気まぐれにもほどがあるんじゃないか、と思った我が家の冷蔵庫なのだった。
(おしまい)
我が家の冷蔵庫が気まぐれになった話 彩霞 @Pleiades_Yuri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。