貴族の娘・時子が会ったのは、月下の鳥居に座る一人の鬼。
中流貴族芦原時長の娘である時子は、父を病から救いたい一心で、陰陽道に詳しいその鬼に助けを求めます。
この病の一件が解決したのをきっかけに、時子はなにかと鬼――法眼を頼るようになります。
法眼という鬼が何者なのか気になりますが、序盤で分かるのは、鬼ヶ原神社を拠点としていることと……、意外に茶目っ気があって可愛いということです。
そして、非常に優しい。初対面の時子のために尽力したり、子どもと鬼ごっこしたり、人を守るために血を流したり……。
本作は、人の情が中心にすえられており、情故に悪意が呪いのような形で害をもたらしたり、時には情故に救われたり、報われなかったりします。人の情とは闇深いものであると同時に、深い愛情という光りがある。それを示してくれる物語が、いくつも数珠つなぎのように紡がれていきます。
丁寧な文体で「情の物語」が語られ、その中で、交友を深めていく時子と法眼、そして芦原家に関係する人々。
情で繋がる人と鬼の物語を、どうぞお楽しみください。