優しい世界
猫の集会
少しの行動
第一話
ボクは今、冷たいアスファルトの上にダンボールを敷いて座っている。
そして、さまざまな人が通り過ぎるのをただひたすらにボーっと眺めていた。
この人々は、どこに…なんの目的で…だれと、どこへ向かっているのだろうか…。
…
ボクには、いくところもなんの目的もない。
…
以前までは、目標だってたくさんあった。
でも…今は…何もない。
すべてを失ったんだ。
両親もすでに他界しているし、大切だと思っていた友達にも裏切られて…
…
そんなこと考えていたら、ぼやーっと視界が悪くなった。
そう…涙で視界が悪くなったんだ。
そんなボクの目の前に一人のおばあさんがよろめいた。
「あ、大丈夫ですか?」
おばあさんが躓いた。
咄嗟にボクは、おばあさんを支えた。
その拍子に、おばあさんの耳からイヤリングがカランと地面に落ちた。
とっても綺麗なイヤリングだった。
たぶん本物のダイヤだと思う。
これをお金にしたら、いくらになるんだろう…
一緒そんな黒い心がよぎった。
そしてイヤリングを拾ったボクは、じっとイヤリングを見つめておばあさんに渡した。
そしたら、さっき引っ込んだはずの涙が目からポロリと落ちた。
ボクは、ハッとした。
だって、おばあさんが心配そうにボクを覗き込んだから。
なのでボクは、とっさに
「あ、、汗が…ごめんなさい。こんな汚い手であなたの素敵なイヤリングを汚してしまいました。」
と、謝った。
するとおばあさんは、にっこり微笑んで
「助けてくれたお礼にあなたにそのイヤリングをプレゼントさせてください。これは、どうぞおすきになさって」
といい、その場を去ってしまったのです。
断ったけど、半ば強引に頂いたという感じだ。
ボクは、呆然としてイヤリングを握ったまま数時間を過ごした。
それからしばらくすると、ボクの目の前で小さな女の子が大事そうにもっていたおもちゃを落としてしまい、泣いてしまった。
一緒にいたお母さんは、とても困っていた。
そして新しいおもちゃを買いに行こうと女の子を説得していた。
しかし一向に泣き止まない女の子。
ボクは、たちあがりその女の子におばあさんからいただいたイヤリングをわたした。
そしたら、女の子は綺麗なイヤリングをみてニッコリ微笑んで、
「ありがとう‼︎お姫様みたい‼︎」
と、大喜びで受け取ってくれた。
お母さんは、そのイヤリングをみて少し驚いた顔をした。
そりゃ、そうだよな。
こんなボロボロな人がそんな豪華そうなイヤリング持っていたんだから。
そのお母さんは、それはあなたの大切なものなのでしょう?
あなたが持っているべきと言ってくれたのだが、ボクは男だからイヤリングは似合いませんって笑って、女の子に譲った。
そしたら、なんと…
なんと次の日、昨日イヤリングをくれたおばあさんと、イヤリングをあげた女の子が一緒にやってしたじゃないか。
⁇
よくよく事情をきくと、まさかのあの二人は…家族だったそうな。
家に、おばあさんお母さんと女の子それぞれ帰り、譲ったはずのイヤリングを孫が持っていたってなって驚いたと話していた。
そして、あなたはとても素晴らしい強い人だと、褒めてくださった。
こんなところにいては、いけない。一緒にいきましょうと、とても大きなビルへと案内された。
おばあさんとそのお母さん、娘さん…この三人をみるなり、ビルにいた方々が深々お辞儀をした。
そしてそんな方々にボクは、連れられて社長室へと案内された。
「わたしの妻と娘、そして孫を助けてくださり、ありがとう」
と、社長からお礼を言われた。
そして、お礼にこの会社で一緒に働きませんか?と誘っていただけたのでありました。
こんなことがあるなんてびっくりでした。
そして…
そしてその十数年後、あの女の子とボクは結婚したのでありました。
おしまい。
第二話
わたしは、八十歳を過ぎた老夫だ。
歩くのもやっとで、毎日生きることだけで精一杯。
昔は、仕事してそのあと飲みに行って朝まで大騒ぎして、なんてことも多々あった。
しかし…
今は、仕事なんてできるわけもなく…
遊び歩くなんてもってのほかだ。
お金だって、どんどん減っていく一方だ。
足は痛いし、手の力も落ち…目もあまり見えない。
そして耳もほとんど聞こえない。
なんなら、耳鳴りのほうがよく聞こえる。
…
老いるなんて想像していなかった。
生きていくのがとてもつらいと感じている。
お風呂に入れば、足を滑らせないかと心配になる。
そもそも一人暮らしだから、お風呂で転倒してもだれも助けては、くれない。
でも、生きる為には色々やらなくてはならない。
まずは、食べ物を調達せねば。
ザーザーと降りしきる雨の中、わたしは傘をなんとかひらいて、買い物へと出かけた。
ビチャビチャと冷たい雨が靴をしみていく。
寒い…冷たい…。
からだが冷えてどんどん膝も痛くなる。
…
こうしてようやくお店に辿り着き、パンと牛乳を買った。
ほんとうは、たくさん買いだめしたいと思うところだが、重くて持ち帰ることができないのがわかっていたから少しばかりを購入した。
そしてレジに並んでお会計。
これがまた大変な作業だ。
小銭が溜まってしまって重かったので一枚一枚出していた。
すると…
傘がバタンと床に倒れてしまった。
あぁ…と傘を拾おうとしたら、今度は小銭がバラバラと床に落ちてしまったではないか。
おぉ…これはどうしたものか…。
みなさんにご迷惑をおかけしてしまった。
申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
そうこうしていると、わたしの周りにいた人々が…あら大変だと、一斉に小銭を拾い集めてくださった。
そして、傘も立て直してくれ…レジの店員さんが一緒に小銭を数えてくださった。
みなさんのおかげで、わたしはあっという間にお買い物ができた。
深々とみなさんにお辞儀をして、わたしはお店を後にした。
こんな些細なことを皆でやるとあっという間の出来事として、済んでしまう。
人の力は、偉大だ。
みんなの優しさが心に染みる一日となった。
そしておじさんは、自分もだれかの役に立ちたいと考えるのです。
ですがおじさんは、からだが思うようには動きません。
だから、働くこともできないし、だれかになにかを教えるのも難しいです。
なのでおじさんは、自分にできることをしました。
それは、精一杯の笑顔でありがとうと伝えることでした。
おしまい。
優しい世界 猫の集会 @2066-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます