立花雪乃の事情

私、立花雪乃は小中高の完全一貫教育を行っている私立の女子校、英和女学館に通っていました。

ほとんどの生徒が身内に著名人を持つという特別な学校に、全国的には無名の不動産会社を営む家の娘である私が通えたのは、学費を払えるだけのお父様の力に加え、お母様が卒業生ということが理由だったのでしょう。


容姿にも恵まれて何不自由なく暮らしている私の欠点は、勉強が苦手ということです。

主要教科も、図工も、体育も苦手。ただ幼い頃からバレエをやっているおかげで音楽とダンスだけは比較的得意なほうでした。

小学校に在校中からこのままの成績だと中学へ上がれないと言われ続けました。

それでも、入学以来無遅刻無欠席を続けて、校内美化などの特別活動に積極的に参加して生活面は優秀と評価されて、義務教育の中学には上がることが出来ました。


しかし、中学生になって学習の難易度があがると、私はますます勉強についていけなくなりました。

定期試験も常に最下位レベル。

自分なりに努力はしたのですが、どうしてもダメでした。

小学生の時のように生活面の評価で補うことも出来ず、中学三年生になって間もなく、先生から高校は学力に見合った外部の学校を受験して進学するように宣告されたのです。

それは既に決定事項で覆すことは出来ませんでした。


私は模擬試験を受けるなどして学力にあった高校を探しました。しかし、自分の偏差値で入れそうな高校は生徒の質に問題のあるような学校がほとんど。

素行不良な生徒の多い学校は怖くて通えません。

お父様とお母様は、合わない学校に無理に通うくらいなら、うちの会社で働きながら社会勉強をするのも一つの道だと仰いました。

でも、今は高校を卒業して当然の世の中。無理に高校に通う必要はないと両親に言わせてしまう自分が情けない。せめて高校は卒業したい。


そこで色々調べて知ったのが、通信制課程の高校でした。自宅学習と月数回の登校で学ぶ学校です。単位制なので何年かかっても単位数などの卒業要件を満たせば卒業が出来ます。自分のペースで勉強が出来て、私にとって最適な学校です。

幸い、自宅からそれほど遠くないところに通信制の公立高校があって、受験して合格しました。

こうして私は通信制の高校に進学することになったのです。


でも、不安はありました。

公立校だから私立のように必要以上に難易度の高い学習をすることはないでしょう。それでも勉強の苦手な私が学習についていけるのか。ひとりだけで卒業まで学習を継続出来るのか。

通信制高校の中退率はとても高いと聞いています。

ともに勉強をしたり、相談したり、信頼の出来る友達が欲しいと思いました。

そんな思いを抱きながら高校生として初めて登校した新入生オリエンテーション。

会場の視聴覚教室で、私は一番前の席にひとりでポツンと座っている女の子を見たのです。

既に着席している同級生のほとんどが後方の席に集中している中で、ひとりだけ一番前に座っているのは、とても真面目でやる気にあふれているからではないか。あの人こそ私の求めている人なのかもしれない。

勝手にそう思った私は、最前列へ行くと他にも席がたくさん空いているにも関わらず、彼女に声をかけたのです。

それが、高橋紹子さんとの初めての出会いでした。

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二人だけの教室で 白黒鯛 @shirokuro_tai

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