第1話
人生はこの世に生まれた時から決まっている。
って言ったら、あなたは信じる?
あなたが選ぶ道、あなたが出会う人、あなたが今私と話していることでさえ、生まれた時から決まっているの。
ふふっ…でしょうね。そんな摩訶不思議なこと信じられないわよね。…じゃあある物語を話してあげる。
これはね…
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・
・
私は、いつになったらこの世界から抜け出せるの…?
私は、普通に暮らしていた女子高生だった。
家族も裕福ではないけれど私を愛してくれていたし、友人にも恵まれていたと思う。
幸せな人生を送っていたはずなのに…
ある日を境に私はこの世界に閉じ込められた。
いわゆるタイムリープというものだろうと思う。
私は、いつからか同じ一日を過ごしている。
まぁ同じと言っても私だけが違う一日だけれど。
なんで私だけがずっと繰り返しているのか分からない。それにあの
なのに…私だけが残された。友達だって…家族だって、みんな
…いや。全ての人が残されていないわけでもない。私のように
だけど、その人たちは早かれ遅かれみんな
…だけど私だけがいつまで経っても、どんなに望んでも叶うことはなかった。
…どうして?どうして私だけが…。私は神様に怒らせるようなことをしたのだろうか?だから罰としてここに縛り付けているの…?ねぇ…誰か教えて…。私は…どこで間違えたの…?
「未来〜!朝よ〜!起きなさい!」
「…はぁ〜い。今行く〜。」
(…はぁ。今日も今日が始まった。)
私は、
未だに高校二年生。
もう本来の年は分からない。数えるのも諦めた。
(未来が輝くようにと願って付けられたのに、未来に行けないなんてね。…皮肉だわ。)
私はそう嘲笑いながらリビングに向かった。
「おはよう未来!早く食べないと遅刻しちゃうわよ!」
「…おはよう。お母さん。お父さんも。」
「ああ。おはよう未来。…どうした?具合悪いのか?」
「まぁ…。ほんとね。どうしたの?大丈夫?」
「…うん。大丈夫だよ。…もう何年も変わらないなぁって思っただけだから。」
「…?そう?多少は変わったと思うんだけど。」
「母さんは昔から綺麗だよ。」
「まぁ!お父さんったら!」
朝からラブラブな二人を横目に見ながら、私は席に着いた。
いつもと変わらない食卓。
(やっぱり変わってない。…でも。)
「…ねぇお母さん。」
「な〜に?未来。」
「明日は…パンがいいな。」
「分かったわ!じゃあ未来の好きなイチゴジャム用意しとくわね!」
明日は変わるかも知れないという期待が捨てきれない私は毎朝出てくるご飯を食べながらお母さんに明日の朝ごはんを頼むのだ。
(明日は、パンだといいな。…まぁ変わるはずはないんだけど。でも、そうしないと私は…。)
もう何年も同じ日を繰り返している私にとってこの人生は漫画や小説に登場するような不老不死の能力を持つものと同じだ。
永遠に終わりのこない人生。老いない体。
自分は老いない代わりに周りが老いていく。
大切な人や友人が終わりを迎え、いなくなっていく。
途方もない永遠の時間に狂わない人はいないだろう。
ただ一点。不老不死とは違うのは、まわりの時代が変わらないことだ。
自分も周りも老いない代わりに進むことはない時間。
大切な人や友人が終わりを迎えない代わりに、変わることのない日常。
永遠に変わり続ける人生と
永遠に変わることのない人生。
どっちが残酷なのだろうか。
まぁどっちが残酷なのかは経験してみたものしか分からないだろう。
だが、私は片方を経験している。
だから途方もない永遠の時間に潰されるというのは分かる。
…いや、経験した。
終わらない人生に絶望し、自ら、自分の人生を終わらせた。
…だが。終わらなかった。
どんなに泣いても、どんなに絶望しても、何度命を終わらせようとも…終わらなかった。
また、いつもと変わらない日常に戻っていたのだ。
…だから、私は望むしかないのだ。
明日は変わるかも知れないという希望を持っていないと私は狂ってしまう。狂ったまま戻れなくなってしまう。
狂ったまま、もし進んでしまった人生で両親を悲しませたくない。こんなに苦しんで、絶望した時間を狂ってしまったというだけで解放され、その未来を狂ったまま過ごすなんて絶対に嫌だ。
「…らい。未来!ボーッとしてどうしたの?」
「…!ううん。何にもない。…ご馳走様。今日も美味しかったよ。」
「ありがとう!じゃあ行ってらっしゃい!気をつけてね!」
「…うん。行ってきます。」
だから、私は解放される方法を探す。
いくら時間がかかろうとも。
あいにく時間はたっぷりある。
(今日はどうしようか。)
私はぶらぶらと歩きながら考えていた。
今日が終わると全てがリセットされるため、お金をいくら使おうと戻ってくるのだ。
だから日本全国には行ったことがあるし、お金がなくなるまで遊び歩いたこともある。
(今日は久しぶりに学校に行くか…。)
しばらく行ってなかった学校の方向に足を向ける。
(あぁ…あの人も過去に取り残されたのか。)
いつも見かけない人が暗い顔をして歩いていた。
取り残された人は二パターンある。
暗い顔をしたまま未来に行く人と、
何か吹っ切れた顔をして未来に行く人だ。
まだ何がトリガーになっているのか分からない。
ただ、吹っ切れた人は必ずと言っていいほど次の日には明日に行く。
そこから推測した憶測は、取り残された人は何か心残りや未練がある。あるいは、死にたくなるようなほどの絶望や、悲しみを抱えている人が過去に残されていて、それが無くなった人が未来に行っている。
その場合、暗い顔のままの人がどうやって未来に行っているのか分からない。
(はぁ…。分からない事だらけだわ。私だって吹っ切れているのに。そもそも未練なんてないわ。)
私はその人を横目に見ながら学校に向かった。
久しぶりの学校は少し懐かしかった。
授業は既に受けているため、私は体調不良を理由に屋上へ向かった。
(…他にもサボりがいたのね。)
屋上に向かうとそこには先客がいた。
「…あれ?今日は学校に来たんだね!明日香さん!」
(…え?今、今日はって言った?)
「…昨日も学校には行ってたわ。」
「え〜?いなかったよ?随分長い間。」
(…!!やっぱりあなたも…。)
「…あなたもタイムリープ者なのね。」
「ん?タイムリープはよくわからないけど、みんなずっと変わらないんだ。でも君は違うから安心してたんだよ。」
「…そういえば。あなた誰?どうして私の名前知ってるの?」
「え〜!ひどいなぁ。一応同じクラスなのに…。」
そう言ってしょんぼりしたのが可愛くて笑ってしまった。
「…ふふっ!ごめんね?改めて教えてくれる?」
「…!うん!俺は
「あなたは知ってるかも知れないけど。私は明日香未来。…私も未来が輝くようにって付けられたんだ。」
「君もなんだ!同じだね!ねぇ未来って呼んでいい?」
「えぇ。じゃあ優輝よろしくね。」
「うん!よろしくね未来!」
それから私たちはこの変わらない世界で会話を重ねた。
名前の由来が同じで、私が…少し嫌いになりかけてた名前だったけど優輝は嬉しそうに教えてくれた。
それを見ていたらなんだか私も輝けるような気がして、明日に行ける気がして心が少し軽くなった。
優輝は少し抜けていて、タイムリープしていたことも違和感は感じてたみたいだけど普通に喋れたし、いつも同じ内容だけど楽しかったから気づかなかった!それにお金をいくら使っても元に戻るからいいよね!って言ってたの。この変わらない世界でそんなことを嬉しそうに言えるなんて、おかしくて笑ってしまった。
それに、でも買ったものがなくなるのは悲しいよねって残念そうにするから余計に笑ってしまった。
二人でいろんなところにも遊びに行った。
変わらなくなってからの日々で初めて心から楽しいと思えた時間だった。
笑顔も増えて、笑うことも増えた。
優輝といる時間は、タイムリープのことを忘れさせてくれた。
でもある日優輝が教えてくれた。
優輝が抱えていた悩みを。
「ねぇ未来。この前、さ。タイムリープのこと気づかなかったって言ったけど。本当は気づいていたんだ。」
「そうなの?」
「うん。僕もすごく不安でみんなが変わらないのが気持ち悪くて、僕だけしかいないんだって思ってたから…未来が学校に来なくなって嬉しかったんだ。僕だけじゃないんだって。」
「…そう。」
「うん。ごめんね?未来も辛かっただろうにそんなこと思って。」
「ううん。いいの。…分かるもの。」
「…ありがとう。本当はこんなに情けないのを知られて、嫌われるのが怖くて言えなかったんだ。」
「優輝は強いね。」
「弱いのを必死で隠してるだけだよ。」
「ううん。強いよ。私はそう出来なかった。…人生を呪ってたもの。」
「…強がってただけだよ。…本当は怖くて情けなくて、どうしようもないやつなんだよ。」
「強がっていても笑えないわ。あの日から私は笑えなかった。他にも同じ人がいるって知っていても自分のことしか考えていなかったし、この時間に耐えられなかったもの。」
「耐えられなかったって?」
「自ら命を終わらそうとした。」
「…!…そうなんだ。僕はそんな勇気がなかっただけだ。未来はそれでも諦めなかった。今でも探してるだろ?明日を。」
「…私は探さなきゃいけなかったからよ。」
「それでも僕は未来みたいには出来なかった。踏み出すのが怖かったから。だから
「…ふふ。お互い様ね。」
「…ああ。そうだね。お互いに強いものと弱いものを持ってる。」
「…うん。二人なら抜け出せるわ。きっと…。」
「そうだね…。」
そういって私たちは笑いあった。
私たちは弱い部分を補う相手が必要だったのかも知れない。
弱い部分に押しつぶされないように支えてくれる相手が。
お互いに弱いところを打ち分けて分かり合えた今ならこれから何があっても大丈夫かも知れない。そう思った。
・
・
・
どうだった?
これで信じたかしら?
ふふっ作り話って?違うわ。ほんとにあった話よ。
ん?じゃあその後どうなったかって?
それはね…
「未来〜!朝よ〜!」
「は〜い!」
リビングに降りると、もう朝ごはんの準備が出来ていた。
「おはよう!未来!今日は未来の大好きないちごジャムが乗ったトーストセットよ!」
「ありがとうお母さん!いただきます!」
…あれから、私は明日に行くことが出来た。
まだ過去に残されるというトリガーは分からないけれど、なんとなく分かった気がする。
人生に希望が見えなかったり、人生に生きる意味を見いだせなかった人が過去で希望を見つけるため、生きる意味を見いだすためにタイムリープしているんじゃないかって。
私も、もしあのまま優輝に出会わなかったら生きる意味を見いだせなかったかも知れない。
これも予想だけど、私がタイムリープ中に見た他のタイムリープ者がこの前ニュースで自殺したって報道があったの。
この人は暗い顔をしたまま未来に行った人だからもしかすると…
希望や生きる意味を見つけられなかった人は自殺をする日までタイムリープしているのかも知れない。
私たちには変わらない日々でも、タイムリープしている間に時間は進んでいたのかも知れない。
その間、変わりに進んでいた私たちがいたのだろうか。
ニュースで見たその人の知り合いは、急だった。昨日まで普通だったのに…って言ってた。
私は絶望した日を知っていたし、見たから分かったけれど。
それを過去に残したまま、表だけで接していたその人の周りの人達には突然だったのかも知れない。
私は過去に残された日の数年後とかではなくて、次の日だったから未来が輝くのが見えた人はそれまでの時間関係なくそのまま進むのかも知れない。
予想だから確定したものじゃないけれど、多分そうなんだろうと思う。
「じゃあお母さん!行ってきます!」
「行ってらっしゃい!未来!」
「…あっ!優輝!」
お母さんに声をかけて外に出ると優輝がいた。
優輝も私と同じで明日に行くことが出来た。
今は一緒に学校へ登校している。
…いつか、この胸に芽生えた想いを伝えられたらいいなと思ってる。
これから絶望する日や落ち込む日があるだろう。けど、優輝と一緒なら乗り越えられる気がするから。
私はこれからも
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・
・
未来に行くことが出来たんだ!って?
ふふっそうよ。
その子は未来に行くことが出来たの。
諦めなければ、未来への道は開くのよ。
でも、どうしようもない時はあるの。
その時は誰か弱いところを支えてくれる人を見つけるのよ。
案外近くにいるものだから。少し顔を上げて探せばすぐに見つかるわ。
逆に、そんな人がいたら支えてあげられる人になってね。
隠すのがうまいから少しだけ溢れる弱さを見つけてあげて。
聞いてあげるだけでもいいのよ。
弱さをさらけ出すのはとても勇気がいることだから。何も言わずに喋り終わるまで聞いてあげて。
これはお姉さんとの約束よ?いい?
うん!いいお返事!
…お母さんも迎えに来たことだし、もう大丈夫ね。
これもお約束!勝手に一人で歩いていっちゃダメよ!
…じゃあお姉さんは行くわね。夫がもうすぐ帰ってくるの。
…ん?お姉さんは誰かって?
ふふっ。私はね。
明日(ミライ)が見えない世界で 天音(そらね) @sorane_tukikaze
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