本当に悪かった今作(ネタバレあり)
悪の道化師見たくて悪の道化師の続き見にきたら悪の道化師出てこなくて、代わりにたっぷりの尊厳破壊を喰らった。
前作の全否定、ジャンルすら合わせる気がない。
オープニングは良かった。
アニメーション、これまでのことの軽い振り返りとこれからの暗喩、そこから悲惨な精神病棟での暮らしが映し出されて、前作同様に不幸からスタートなのはまだ良かった。
ただ思えばここから予兆はあった、前作で完成していたはずの悪のカリスマが完全に消え去っていたと気がつくべきだった。
で、ヒロインの登場、主人公は愛を知り初めて幸せを感じて良くも悪くもドラマを匂わせてきた。
周囲も悪の側面を褒め称え、弁護士は理解よりも減刑ばかりを求めて話を聞かず、一方で善人としての側面は誰からも見向きもされず、描写もされない。
調子乗って色々やって、挙句にボコボコにされて再びの不幸、最後の一線越えるには十二分な状況、テーマや前作の段階で完成された悪なのは確実、だからあとはどう堕ちるだけの話、なのにまさか後悔して反省するとか、正気か?
確かに裁判、最後の証人にやってきた親友のシーンは心に来るものがあった。
けれど結局最後、主人公の心が折れて後悔する原因は何かと言えば、裁判でバカにしてた看守に逆ギレされ、帰って早々にボコられて、直接的表現はいものの間違いなくケツ掘られたーって理由は、いくらなんでもダサすぎないか?
あそこまで尊厳踏み躙られ、本当の心を曝け出したら否定され、全てを失ったどん底、前作ならばそこで狂気が目を覚ましての、だったのに今作は何もない。
最後の派手な花火も光っただけで、ヒロインに振られてスゴスゴ帰ってきて、挙句に虫のように殺され、最後の余韻もミュージカルで台無しにする。
そうミュージカル、歌だけいいけれども、歌しかよくない無駄な時間、ヒロイン役の黒玉ねぎ入れるために必須ってんならこれは全部いらなかった。
歌全体として、現実で歌ってるのは三割、正確には三曲ぐらい。これはまだ許せた。
エキセントリックな言動や目指すべき道化師の性格から歌うこと自体は不自然なものではなく、むしろ音楽を通した人気の表現、一体感、からの狂気の連鎖としての表現はかなり良かった。
ただ残り七割は不要、DVDのチャプターならまるまる飛ばしてた。
内容は空想、露骨に別セット、わけわからいまま歌って踊って、実はそれが主人公の妄想で、その時の心情を表してるという最悪なオチ。
前作は現実と空想との境界が曖昧だったのに、今回はミュージカル始まると空想とわかる、というか境界を隠そうともしない。しかも細やかな表情の変化で表してた感情を楽に音楽したせいで台無しになってる。死ねよ。
そうして長々歌ってる間に話は終わる。体感意味のない曲が長すぎた。ミュージカル好きでもなければ耐えられないだろう。
だけども一番酷いのが、今作誰も殺せてないことだ。
ムカつくやつ、無理解なやつ、明確に悪とされるものもいて、それにブチ切れて愉快に殺してたのが前作であり、それが持ちネタとなったのが前作で完成した道化師だった。
なのに今作は妄想の中、歌いながら殺すところを思い浮かべるだけでマジで殺さない。翻弄され、侮辱されるだけの哀れな弱者で終わる。
最後、死ぬ直前までミュージカルやってる、しかできないのは悪い意味で象徴的だ。
そのバックでなんかいきなり出てきたナイフが継承します的なことやってて、つまりは道化師としてのアイコンも奪われて死ぬという、尊厳全てを踏み躙るバッドエンドだった。
主人公は救われず、何も得られない。
全部まとめると、何もなかった男が、一時的な狂気に身を任せ、血まみれの人気を手に入れ、頭の中で歌って踊るほど上機嫌になるも、カマ掘られて心が折れて、後悔し、懺悔したら何もかもを失い、何者にもなれないまま惨めに消えていく。
……弱者である主人公を切り捨てたのが今作だ。
圧倒的理不尽、善人であっても幸せになれない境遇、そこから悪へ堕ちたら認められたという現実、それをなすための狂気を前作主人公は手に入れたし、それが魅力だった、
しかし今作はその狂気も魅力も奪われて、ただの弱者に戻された。堕ちてる分だけなお状況は悪い。
圧倒的理不尽、前作の主人公が憤怒と殺意を向けていた相手が作り手側という皮肉は、絶対作り手は考えてない。
ただただ前作主人公が報われてはいけない、悪いことしたんだから不幸にならなければならない、模倣してもいいことないよと、今作は前作での悪影響への後付けのお説教でしかない。
こうなったら理由、大人の事情、前作の苛烈な人気から模倣犯が発生し、日本でも地下鉄でバカやるやつ出るぐらいで、それを抑える必要があったとはまだ理解できる。
そのために主人公に懺悔させ、自分は悪の道化師なんかじゃなかったと、否定させる、否定するのもまだいい。
これで、後悔してもヒロイン、愛だけは残るのでも良かった。
あるいは悪に堕ちて愛を失うのでも皮肉が効いてて良かった。
何かしら、否定するならばその代わりとなる答えを用意してあれば許された。
だけどそうはならなかった。
弱者は弱者のまま、例え悪に堕ちて力を得てもすぐに失い、ただ堕ちた弱者となる。
この作品は弱者への侮蔑と悪意でできている。
そして殺意が湧くのは、その侮蔑と悪意が観客にも向いてることだ。
前作の全否定、社会現象にまでなった大人気キャラを否定し、自己批判させ、力も尊厳も狂気さえも取り上げて、ゴミとして捨てる。
それを前作好きで、主人公に共感して、金払った観客に見せるのは、その観客そのものへの否定、もはや攻撃だ。
敵意を、侮蔑を持ってこられたら殺意が返る。
これは想像だが、今作楽しめた人間は二種類、前作が嫌いだったか主人公に共感できなかったのどちらかだ。そしておそらく、現実では勝ち組、弱者の気持ちなどわからないんだろう。
そんなこともわからずにこれを堂々出せる製作陣、ある意味で彼らが本物の道化師なのかも知れないが、それにしてはジョークが笑えない。
大炎上なわけだ。
題名を伏せた映画感想文『大ヒットした前作とそうじゃないらしい次回作編』 負け犬アベンジャー @myoumu
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