第2話

 早朝の仕事は淡々とした時間が流れる。

 無機質な機械に無表情の人間に囲まれながら私は目元以外全て覆われた防護服で作業をしている。

 目の前にあるのは弁当。ご飯、煮物、ハンバーグ、ミックスフライとどこにでもありそうな品揃えだ。

 私はこのご飯の上にただひたすらひじきを乗っける。

 普通は梅干しだろうが、そこがこの弁当を作っている会社の苦し紛れのオリジナリティらしい。

 私は静かに目の前に運ばれてくる未完成の弁当にひじきの塊を乗っけた。

 周りの人達も同様にひじきを乗っけていた。

 ひじき部隊と会社の上層部は呼んでいるらしい。

 私達はある意味無機質な機械や未完成の弁当と対して変わりはない。

 この数時間は人間を捨てているからだ。

 しかし、そこから解放された者はこの工場の一段高い大きなガラス窓の向こうで、サボっていないか監視している。

 出世すればアチラ側にいけるかもしれないが、あいにくそんな願望はない。

 早く終わらないかなと思うが、時計を見るとまだ勤務を始めてから一時間しか経っていなかった。

 工場内に超能力者はいないと思うが、恐ろしいほど時間が遅く感じる。

 けど、これが唯一の収入源なので舌を噛みちぎるくらい我慢して、ひじきを乗っけていた。

 すると、ブザーがけたたましく鳴り響いた。

 何かトラブルが起きたらしい。

 機械だった私達はベルトコンベアと共に止まっていた。

 ふとガラス窓の方を見ると、透明だったガラスが赤くなっていた。

 血しぶきが飛んでいたのだ。

 目を凝らして見てみると、ガラス窓の向こうに巨大な怪物がいた。

 体長は三メートルぐらいだろうか。

 上層部は悲鳴を上げながら逃げていた。

 が、怪物の大きな爪に突き刺さったり、足で踏み潰されたりしていた。

 無感情の人間達も怪物の存在に気づいたのだろう、人間の心を取り戻して逃げていった。

 私は静止していた。

 頭の中で次の就職先を探していた。

 掃き溜めみたいな経歴しかない私が果たして雇ってくれる場所がいるのだろうか。

 年も新入社員と呼ぶには消費期限切れだし、中途採用にしては賞味期限が保存食みたいに長過ぎる。

 フリーターとニートのハイブリッドみたいなご身分が、仕事を見つけられるだろうか。

 なんて事を考えていると、ガラス窓にヒビが入っていた。

 強化ガラスのはずだが、怪物の力はそれよりも遥かに強いのだろう、数発穴を開けた。

 破片が飛び散っていた。

 怪物が未完成の弁当を踏み潰して、私を見下ろしていた。

 私がチキンか何かに見えるのか、ヨダレを垂らしていた。

「あの……」

 私は間髪を入れずに聞いてみた。

「お宅って、どこかで雇われているんですか? それとも個人業で? もし人手を募集しているのでしたら、雇ってくれないですか? 完全週休二日制や有給休暇が欲しいとか贅沢は言いません。お願いします」

 私は深々と頭を下げるが、怪物は無視して逃げていった人間達の方へ追いかけていった。

 彼らの断末魔が聞こえる中、私は深い溜め息を吐いた。

「……採用は見送りか」

 今日はこれでおしまい。

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無題【思いついたら書きます】 和泉歌夜(いづみ かや) @mayonakanouta

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