無題【思いついたら書きます】

和泉歌夜(いづみ かや)

第1話

 私は夜の街を歩く。いや、田んぼでもいい。

 とにかく私は歩きたい。何も考えずにブラブラと歩きたい。

 左の耳には喧騒としたマリネの煮凝りにたいな悪臭が漂っていた。

 右耳はダウィンチが愛したとされているラムレーズンの香水の薫りがした。

 私はコンビニに立ち寄りたいと思った。思っただけで行動はしない。

 私には意志がない。お金は多少はあるが決定権はない。

 どこかの誰かに剥奪されてしまった。それでも、私はコンビニに行く。

 ドアが開くと、いつもどおりの顔をした男が無愛想な挨拶をしてきた。

 薄暗い照明は目が焼け死にそうだ。頭が火であぶられたかのような心地がする。

 何か突拍子もない事をしたくなったが、そんな事をしたって何も意味はない。

 すると、私の足元が光りだした。

(あぁ、またか)

 私は溜め息を吐いたと同時に光に包まれてしまった。


「お願いです! 世界を……」

「断る、断る、断る、断る、断るぅうううううう!!!」

 私はこれでもかというくらい拒絶反応をみせて、女神にドン引きさせた後、元のコンビニに戻してもらう事にした。


 コンビニで割引のザリガニの缶詰を見つけたので、それだけ買って路地裏に向かう事にした。

「よう、姉ぇちゃん」

 背後から暴漢がネチョネチョした声で話しかけられたが、聞こえないふりをした。

「てめぇ! 聞こえてんだろ!」

 逆上してきたので、私は支離滅裂な言葉を吐いて、無理やり追い払った。

 暴漢どころか周囲にいた通行人もいなくなってしまった。

 虚しくなったので唾を吐いて、今度こそ路地裏消えた。


 アパートっぽい何かの何号室が私の根城だ。

 早朝勤務で疲れた身体がまだ残っていた。

 鍵を開けて中に入ると。亡霊が私に襲い掛かってきた。

 地面に寝そべり、彼女のブラックホールみたいな口を目の当たりにする。

「イヒヒヒヒヒヒヒッ♡」

 私はこれでもかというくらい奇怪な笑い声を上げてみた。

 亡霊は構わずに噛み付こうとしてきた。

「殺してくれ」

 私は唾を吐くように言った。

「お願いだから殺してくれ」

 懇願するが、亡霊は価値がないと見たのか、風船みたいに離れて消えてしまった。

「……はぁ」

 私は魂が出るかと思うくらい溜め息を出して、ムクッと起き上がった。

 暗闇のままリビングに向かい、ちゃぶ台の上にコンビニの袋を雑に置いた。

 私は手洗いもうがいもせずにザリガニの缶詰を取り出して、封を開けた。

 生臭い臭いでむせてしまいそうだったが、ここ一週間ろくなものを食べていないので、無理やり口の中に入れた。

 殻が歯でグシャッと潰れ、脳味噌や臓器がベチャベチャに潰れていく。

 外ではパトカーが喧しく吠え、室内では私の下衆な咀嚼音が響いた。

 今日はこれでおしまい。

 

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