あ、こんなところに祠がー(棒読み)
色葉みと
あ、こんなところに祠がー(棒読み)
【これまでのあらすじ】
SNSで祠壊しブームがやってきて、ついうっかり本物の祠を壊してしまった僕、
寂しくて寂しくて、どうにかなってしまいそう……!
そんな時でした。またまたついうっかり祠を壊してしまったのは。
どこからか現れたのはあの祠壊しブームの火付けキャラ的存在、無精髭長髪喫煙おじさん——
SNSで流行ったテンプレート通りにしないと大人の事情で何かがダメとのこと。ならばぜひやってくださいついでに僕の話し相手になってください!
……え? 「俺は祠が壊れているところにしかいけないからダメ?」
そっか、そうなんですね……(僕の心の声:なら何回でも祠を壊そう! それで明香さんにここまで来てもらおう!)。
前来てもらってから3日経ったし、もう呼んでもいいよね?
日の光を遮る高い木々、鬱蒼としている緑からは恐怖すら感じる。
鳥の声も虫の足音も、葉のざわめきすら聞こえない森で、人知れずその
バキッ!
両手に乗るくらいの小さな祠。
土も草木も付いておらず、汚れも壊れているところもない、森にあるには綺麗すぎる祠。
繊細な木細工で作られた美しい祠。
「……あ、やべ(棒読み)」
そんな祠を踏み壊したのは、ゆるく結んだ黒髪を腰あたりまで伸ばした顔立ちの整っている男性、僕!
黒い
「『……あ、やべ(棒読み)』じゃないんだよ! またか!?」
そう叫んだのは、無精髭とハーフアップにしている茶髪が印象的な30代後半くらいの男性だ。煙草の匂いを身にまとい、あからさまに呆れているこの人は噂の明香さん。
祠が壊される前は近くにいなかったというのに、いつの間に現れたのか。それは考えるだけ無駄なことだ。大人の事情がかなり絡んできているから。
「てへぺろ☆ また祠壊しちゃった☆」
「お前……、何回目だよこれ」
明香さんは頭を抱えて言う。
「3回目、くらいかなぁ……?」
「嘘つけ! お前もう300回は壊してるだろ! サバ読みすぎだ」
「そういえば、そうだった気もするねぇ……。というか、僕の名前忘れたの? お前じゃないんだけど、明香さん?」
「下の名前で呼ぶな。
僕は、分かったよ明香さんと頷いた。
そんな軽口をかわす僕たちの足元、壊された祠からは黒い泥のようなナニカが這い出てくる。
ぶくぶくと不自然に煮えたち、
それは、僕の足首を掴もうと手のようなものを伸ばした。
説明しようっ!
ナニカとは、祠を壊したら出てくるヤバいやつのことである!
ナニカに飲み込まれると、永遠と続くの苦しみの世界で生きていくことになる! 僕のこの状況がまさにそうだね! 救済措置が残ってくれているのが不幸中の幸いだ!
という感じで説明以上っ!
「うわっ、もう出てきてる……。明香さん、いつものあれお願い」
明香さんは仕方ねぇなとため息をつき、あるセリフを紡ぐ。
「『その祠壊しちゃったの? 君、死ぬよ』」
「え!? 僕はどうすれば……!?(棒読み)」
どうだい明香さん、今日の演技結構いい感じじゃない?
ありゃ、思いっきり睨まれた。けどテンプレ展開を途中で止めることはないんだよなぁ。
「『その黒いナニカを消し去ることができたなら、君は生き残ることができる。さて、何もせずに死ぬか。わずかな可能性にかけるか。君はどうしたい?』」
「そ、そんなのもちろん……可能性にかけるに決まってる!(棒読み)」
「『そうか、じゃあ頑張るんだな』」
「う、うん!(棒読み)」
「……はぁ。気は済んだか?」
「ありがとう、堪能させてもらったよ」
何がだよと言う明香さんには無視をして、僕は笑顔をたたえて走り出す。
後ろから明香さんとナニカがついてくる気配がした。
さあ、一人ではできない遊び、鬼ごっこの時間だ。
同じ方向へ1時間ほど走っていたはずなのに、周囲の景色は変わらず、あの壊れた祠もそこにある。
相変わらず謎が多いよな、と軽口を叩き合う僕たちに対して、ナニカは息を切らしていた。
「ねぇ明香さん、これって本当に生き物じゃない
僕は足元に落ちていた木の棒でナニカをつつく。
反撃が来そうなものだが、ナニカは酸素を取り込むので忙しいらしい。されるがままになっていた。
「……知ってもどうもしないことはほっといた方が良いぞ。ほら、とどめさせよ」
「もう少し遊んでたかったんだけどなぁ。ま、仕方ないか」
僕はナニカに手をかざし、一言呟く。
「『戻れ』」
するとナニカは祠に吸い込まれ、壊れていたはずのそれはもとに戻った。
そこにいたはずの明香さんも、いつの間にか消えていた。
「……はぁ、また一人か。
……あ、こんなところに祠がー(棒読み)」
バキッ!
あ、こんなところに祠がー(棒読み) 色葉みと @mitohano
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