第93話
結婚式の日、ドレスを着た望とバージンロードをゆっくり歩いた。手を離すのが名残惜しくて、それでも望の手を離した。
望は泣きながら手紙を読んだ。
「私は母を早くに亡くしました。小さな男の子をかばっての事故でした。その時父は私にそれを覚えさせないようにずっと私の目を覆っていました。抱きしめていてくれました。今ならあの時どんなに母に駆け寄りたかったか分かります。
それでも父は私にそれを覚えさせないことを選びました。
父はいつも私の前では笑顔で、どんなに忙しい日も必ず私のためにご飯を作ってくれました。どんなに遅く帰ってきても笑顔でいてくれました。
一日だけ、夜中に起きた日に父が泣いているのを聞きました。母が他界してから一年以上経っていたのに、昨日のことのように父は泣いていました。
私の、お父さんは、どんなに辛くてもそれを私に見せないようにずっと闘ってきてくれました。
そんなお父さんと、素敵でかっこいい最期を迎えたお母さんの元に生まれられて幸せです。
お母さんもきっとその姿を見ていると思います。お父さん、お母さん、私をここまで育ててくれてありがとうございました。これからもずっと大好きです」
その手紙に奏斗も泣いた。唯一泣くと先に宣言した時が訪れた。
陽向、見てるか。望はこんなに大きく、こんなに綺麗で素敵な大人に育った。
俺は、俺はきっとあの時あの子を助けなければ陽向が生きていられたのにと思ったから、陽向とは同じ場所には行けない。ごめんな。
でも代わりに望が長生きして、できる限り遠回りしていつかそっちに行く。だからそれまで見守ってやっててくれ。その時がきたら俺の愚痴でも、愛してたことだって、何だって言ったらいい。だからもうちょっと待っててくれ。
ーー陽向、今でも愛してる。見えるだろう、望はこんなにも素敵になった。陽向があの時最期に視た未来はこんなにも綺麗になったよ。
私の目に最期に映るもの【完】 平井芽生 @mei-1002
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