第五章 5-1

――――……灼熱の海に捧げた己の身。

 橙を主に多彩な色で輝き光るマグマの中、鎖骨に刻む【№00】の《称号》は、己の業に数多の想いを注ぎ込んで、この状況下に陥っても尚、存在意義を探す行為を止める事が出来ない。

 燃え続ける身体が生きている証を欲するように聴覚へ訴える事から、火の粉のチリチリとした音が鳴り響く瞬間だけが、この折り重なる苦渋から逃れられるささやかな安らぎ。

 それはどれほどの時間だろうか。身体の原型は見るも無残と言うのに、悲観に満ちた心と体を分離させようとしても、その行為をこのナンバーと数字が容認する気配は微塵もない。

 いつからか機敏に音を察知する事で、大量の雑音を拾い上げた聴覚。それは他愛ない恵みを欲する心であり、大きな目標を掲げて努力する強い精神や、人を愛するあまり傷つき締め付ける心の儚い鼓動でさえ一種のメロディとなって、遥か遠く離れた大地へ流れ着く。

 多くの感情を拾い上げるメロディは、マグマの中で混ざり合ったはずの心を再生させて、幾度もきつく締め上げ、痛みの連鎖まで起こして、全身を駆け巡るような現象に苦しめられる。

 多くは自己中心的な感情の波に揉まれ、無理矢理押し付けられる痛みから逃れようと無視を続けた雑音はより大きく、より乱暴に鳴り続ける事で、深い悲しみが強い怒りに変わる時こそまさに天命で、使命と覚悟の感情が揺さぶられた頃には、背負う《烙印》の意味を噛み締める。 

 示す運命を変える試練は、地獄と言う名の環境を自らの手で逆転させる程の力を掴むこと。

 それは何よりも不安で、恐ろしく涙が出るほどで、あまりに無理難題なようで……。

 この殻を割れる日が来るのなら、それは弱気な感情を否定できる強い心が生まれた瞬間。

 これは己の存在を主張するための大事な《目印》。自分の力と思考だけで生きる自由は、全ての生物に与えられた尊厳。動くのも然り、動かないのも然り、そこで終えるのも然り。

 見える一筋の未来は、身勝手な自分に与えられた最後の我儘。

 心を燃やし尽くして、書き換え不可能な運命を投げ入れ、感情全てを与える……――――

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