星はいくつ並んでいる
はくすや
大三角かダイヤモンドか
正月料理はすぐに飽きる。だから何かとカウチポテトな食べ物を用意していたつもりだったが、それを食らう住人が増えたのではすぐに底をつくのだった。
叔母を頼るのは申し訳ないから火花が自分で買いに出ることになった。すると叔父と祖父も口だけ便乗し、買うものが増えた。
「仕方ねえな」
リュックを背負ってバイクのところまで行くと従妹の
「ホノ
「え? ただの買い出しだぜ」
「リュックは私が背負うから」
「勉強しなくて良いのかよ」
「息抜き、息抜き」
中学三年の
飛鳥を後ろに乗せ火花はバイクを走らせた。
利根川下流の水郷の町。夜は暗くて人通りが少ない。寒いからよけいだ。
こういう夜は星空が近く大きく感じる。
「寄り道してから買いに行くか」
火花は利根川脇の道路を走らせた。
しばらく走ったのち、昔よく寄った公園にバイクを停めた。
「やっぱりこっちの方が星が見えるな」火花は東京の空と比較した。
「星より女の子に夢中になるくせに」
「それは常識というものだ」火花は笑った。
「星なんてわかるのかな」
「俺だってオリオン座くらいはわかるぞ。あそこに三つ並んだ星がある。あれを見つけたらその回りに明るい星四つ。これでオリオン座カンスト」火花は大げさに指さして胸を張った。
「ごほうび問題ね。数学なら絶対にホノ
「あ、そうかもな」
こと数学に関して、火花は難問にしか興味がなかった。たった一問の難問に時間を費やし、赤点ばかりとってくる変わり者だったのだ。
「あの三つの星、仲良く並んでいて
「あいつら仲良しでもないけどな」
「そんな風に思ってないくせに」
もちろん仲が悪いはずはない。確かに
「オリオン座の真ん中というよりは冬の大三角の方だな」
「ふうん」と飛鳥は納得しているのかいないのか火花にはわからない顔をした。
「特に
「ホノ
「確かに、いとこ入れると六人だな。すると俺や
「知らないよ」飛鳥はそっぽを向いた。
少し間があった。そして思いだしたかのように飛鳥が言った。
「私、
「は? もし受かったらどこに住むんだ。こっからじゃ通えないだろ」
「ホノ兄のところ」
「確かに部屋は空いてないこともないが」
すでに飛鳥は何度か
しかし同じ高校に毎日通うとなると自分の部屋は必要だろう。
火花の部屋を明け渡して、火花がリビングの隅に寝場所をとるのが現実的だ。友人が押しかけてきた時の居場所はなくなってしまうが。
「俺は良いが……」
「
「あいつ……」楓胡が言いそうなことだった。
「私の居場所は隅で良いし」
「じいさんや叔母さんに言ったのか?」叔父貴に言うのは最後だろう。泣き出すし。
「構わないって言うと思うよ。おじいちゃんが向こうのおじいちゃんと叔父さんとも話をつけてくれると思う」
マンションの持ち主は
「すごい自信だな。もう決めてるって感じだ」
そうなるとやはり飛鳥の父親である叔父貴がどうなるかだと火花は思った。
「俺の次にお前までいなくなったらこの家はさみしくなるぞ」
「兄貴がいるだけで十分だよ。遅かれ早かれ私も出ていくんだし」
「そりゃそうだ」
「そうやって離れても私たちは冬のダイヤモンドだよ」飛鳥はそう言って笑った。
「何だかなー」
大丈夫かな。女が四人に増えてしまう。三人は血が繋がったきょうだいだが飛鳥は従妹とはいえ結婚できる間柄だ。
それに冬のダイヤモンドって、ベテルギウスは入ってない。
いや、待てよ。飛鳥が言う六人とは、もともとここに暮らしていた六人のことだったのか?
そういえば楓胡たち三人のこともオリオン座の真ん中と言ったよな。
「お前……」俺が出ていってさみしかったのか?
火花は月明かりがさす飛鳥の顔を見た。
しかし飛鳥は黙ったままエヘヘと薄ら笑いを浮かべるだけだった。
「買い物して帰るか」
「そうしよ」
二人は元来た道をたどりコンビニに寄ってたくさんジャンクフードを買って帰った。
星はいくつ並んでいる はくすや @hakusuya
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