第2話 テンションぶち上げ女子 Ⅱ


 


 HRが始まっている。

 教室内は雑談する声でいっぱいだ。

 この中に二人で入るのが毎回気まずい……。


「済みません!! 遅れました!!」

「ヤッホー!! お寝坊カップル、ただいま参上致しました!!」


 教室内は一瞬静まり返ったが、直後に笑い声と煽りの声が聴こえてきた。


『お前らまた遅刻かよ! ほんとにお寝坊カップルだよな!』

『もしかしてほんとはデキちゃってんじゃね?』

『仲良いよな〜』

『優也じゃ璃子の相手は厳しいって!!』


 くそっ、コイツら楽しんでやがる……毎回登場の仕方がこれだから、恥ずかしいったらありゃしない。

 この俺に汚名返上の機会をくれ!


 意気揚々と教室へと進入する望月璃子に対して、担任の教師が呆れた顔で苦言を呈す。


『全く貴方達という生徒は……本当に懲りないわね。前伝えた約束通り、放課後は残ってもらいます! 反省部屋行きです!!」


 再び教室内が大盛り上がりを見せる中、俺は顰めっ面でボヤく。


「とんだ醜態だぜ。璃子の奴、一ミリも反省してないよな」

「いいじゃん、いいじゃん! クラスが明るくなったのは、お前らの功績が大きいからなっ!!」

「見せ物小屋じゃねぇだろここは!」


 ポンっと肩を叩いて俺を褒めるこの男は、前の席に座る親友の天王寺明将てんのうじあきまさだ。


「そんで、お前らいつ付き合うの? あんだけ仲良いのに何でくっ付かないんだ?」

「俺とアイツはそんなんじゃねぇよ。実際何も起きてないしな」


 確かに仲は良いんだと思う。

 登校する時以外でも、休み時間に絡まれたりするし、くだらない話で盛り上がったりもする。


 アイツは人生が楽しければそれで良いってタイプだ。

 彼氏が居たなんて話も聞いた事がない。

 少なくとも俺に好意を抱いてることはないだろう。


「優也って意外と奥手だもんなー。さっさと俺みたいに彼女作って幸せになれよ!」

「自慢かよ!!」


 俺こと神山優也かみやまゆうやは、基本的にテンションが高い。

 陽キャと言われる程ではないが、クラスでは比較的人気者の部類に入る。

 それ以外では特に際立った要素もなく、見た目もイケメンではないが不細工でもない。

 チャラい系でもない……はず。


 一応過去に彼女がいたことはあるんだ。

 客観的に見ても可愛い方だったと思うし、それくらいのレベルの人と付き合えたっていう自身もある。


 だけど中学生だったから、精神的にも子供だったもんで、付き合い方もよくわからなかった。

 キスもしてないし、もちろんエッチな事もやっていない。

 辛うじて手を繋いだくらいか……。


 ……。


「おっ!? 璃子の事ガン見しちゃって……気になりはじめたのか?」

「まあ……どうだろうな」


 正直自分でもわからない。

 でも……璃子とはそういう関係にはなれないんじゃないかと思ってる。

 

 玉砕するのが怖いのかもな。

 ふざけながら振られるのが……怖い。


 今の関係性が壊れるくらいなら……友達のままでいい——————。


 そんなことを考えながら、気付いたらもう放課後の時間になってしまった。


 先生が呆れた表情で待ち構えている。

 

『ここでしっかり反省なさい。抜け出さない様に外で見張ってますからね!!』

「はいはい、分かってますよー!」




 律儀に正座をする。

 でも今日はいつもと違う。

 何かがおかしい。

 この拭えない違和感は何だ……?


 璃子が全然話さない。

 こんなことは今までなかった。

 常に何かしゃべってないと気が済まない程の女が……正座程度で静かになるとは到底思えない。


「璃子、今日様子変じゃないか? 具合でも悪いの—————————」


 俺の言葉を遮るように、望月璃子はいつもより小さな声で語りかけてきた。









「ウチらさ……本当のカップル・・・・・・・にならない?」








 刻が止まった。

 唐突に告げられた言葉に理解が追いつかない。

 正座中の足の痺れなど吹き飛んだ。


 これが璃子の本当の気持ち……なのか?


 正直言って死ぬほど嬉しい。

 嬉しいんだけど勘繰ってしまう。

 俺が相当のチキンだということは重々承知しているが、本心で言っているのか疑問に思ってしまう。


「璃子……本当に俺のこと——————」






 …………!!?






「これで信じた? もぉー本当に神山っちって鈍感なんだからー。いい加減気付けし!!」


 俺は人生で初めて……女の子に唇を奪われた。

 もう頭の中は真っ白で、多分唇も震えてたんだと思う。


 それくらい衝撃的な出来事だった……。




 ◇◇◇




 気付けば反省の時間は終わりを迎え、担任の先生が室内へと入ってくる。


『貴方達、今日は静かに反省してたようね。次からは遅刻しないように気を付けなさい』


 先生が驚くぐらい静かだった室内を後にする。


 トボトボと帰り道を一緒に歩く二人。

 下校の帰り道が何故か涼しく心地良い。


 風が止んだ……。

 時間の流れが再び止まる感覚。


「璃子……さっきの答えだけどさ……」

 …………。








「ありがとう……今日から俺たちは本当のカップルだ!!!!!」

「ハハハっ……何そのセリフ!! もっとかっこいい言葉期待してたんだけど!!」


 また元の明るくて活発な璃子に戻った。




「これからもよろしく!——————————優也!!」










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年10月21日 07:04
2024年10月21日 07:08

テンションぶち上げ朝型女子と、ツンデレ美少女夜型女子から同じ日に告白された俺は迷った挙句、二股を楽しむことにします テルト @0wc2k

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画