第48話 意地

森の中、獅子王アーサーが倒れ込んだ静寂な瞬間は、スピーカーから聞こえてくるマイクの軽快な実況が打ち消した。

「さあ獅子王アーサー、ここでリタイアかぁ?どうやら我々の勇敢な戦士も限界のようだ!」と、彼の陽気な声が森に響く。


アーサーはしびれる体のまま、かろうじて頭を持ち上げ、ひ弱な男に視線を向けた。

「どおして…」何とか絞りだした彼の声はかすかに聞こえるほど小さなものだった。


ひ弱な男はにやりと笑い、冷淡な声で答えた。

「どおして?そもそもこの予選はこういうことでしょ?ほら、実況の人だって止めないしさ。」

彼の言葉はアーサーの心に重くのしかかったが、同時に冷たい現実を突きつけるものだった。


「たすけた…じゃないか…」


男は続けて、「イヤー、でも助かったよ。彼の肌は堅いから、僕の能力が通らなくってねー、どうしようかって思っていたところだったんだよ」と言いながら、片足で気絶している鋼の男を指し示した。


その言葉に、アーサーは悔しさと共に相手を見つめたが、動こうにもその体はまだしびれて動くことができない。

ひ弱な男は余裕の表情を崩さずに、鋼の男のポーチからパワージェムを取り出すと、自分の腕端末を見た。

「よし、これで8ポイントだ。」


彼は獅子王アーサーに視線を戻し、ゆっくりと近づいてポーチを開いた。


獅子王アーサーは、全身を覆う痺れの中で何とか声を絞り出した。

「ここはどのゴールからも離れている…ここでポイントを集めたところで、あのロボットに追いつかれるぞ…」


しかし、ひ弱な男はその忠告を一笑に付した。

「ええ、知ってますよ」と言って、彼は自分のポーチから青いパワージェムを二つ取り出した。

獅子王は驚きとともに、何をしようとしているのかと問いかける暇もなく、そのジェムを自分のポーチに無造作に入れられた。


瞬間、獅子王の腕端末が10ポイントを示し、警告ブザーが高らかに響き始めた。

予選クリア条件達成を告げる音だが、アーサーにはそれがむなしく思えた。


ひ弱な男はにやりと笑い、「じゃあ僕はゴール付近に隠しているポイントを取りに行ってきますねー」と言い残し、勝ち誇ったように高笑いをしながら森の中へ消えていった。

その姿は、薄暗い森の中で一瞬の影として、アーサーの視界から消えた。


森の静けさが再び戻ると、アーサーはひとり残され、その場に倒れ込んだまま何もできずにいた。



ブザーの音が響き渡る中、新たな不吉な音が遠くから響いてきた。

鋭く耳を澄ませば、微かに響く金属音――それは、大型ロボットの接近を告げる不気味な前兆だった。

この音は、重々しい足音が地面を踏みしめるたびに増していき、徐々にますます大きくなってくる。


獅子王は痺れの残る体を奮い立たせようと努めたが、それでも手足は鉛のように重く、思うように動かない。

かろうじて腕を動かし、地面を掴んで体の向きを変えようとするが、立ち上がるには至らない。

彼は必死に状況を打開しようと考えを巡らせるが、その間も音は近づき続ける。


森の奥深くから、金属的な唸り声が聞こえた。

それはまるで、獅子を追う狩人が獲物を見定めたときの猛々しさを思わせた。

音は徐々にクリアになり、冷たい機械的な音が混じる。


心拍数が上がり、獅子王の体内を巡る血流の音までが、聞こえてくるようだった。

どこからともなく、自らに迫る危険を予感した。

まだロボットの姿は見えないが、確実にこちらに向かって進んでいることは明白だった。


獅子王は、微かに嗚咽を飲み込みながらも、何とかしてこの状況を打破する方法を探していた。

どれだけ考えてもこの状況をひっくり返す方法は彼には残されていなかった。


森の静けさは、いまや不安と恐怖に包まれ、獅子王の心拍が鼓動を打つ音が、救いを求めて響き続けた。




不気味な金属音が次第に近づく中、獅子王アーサーは、その状況から抜け出す方法を模索し続けた。

森の中で強まる恐怖の中、突然スピーカーからマイクの声が破天荒に響いた。

「腕は動かせるようだな、ギブアップするなら右の手を上に突き上げてくれ!」


その挑発的な言葉についカッとなったアーサーは、何とか右手に力を入れ、地面を強く叩きつけた。

その一撃には、諦めない姿勢と強い意志が込められていた。

まるで大地そのものから力を与えられたように、獅子王はゆっくりと、立ち上がった。


「おーけー、死ぬんじゃないぞ!」マイクの陽気な声がスピーカーを通じて響いたが、

その言葉に皮肉な笑みを浮かべる暇もなく、森の影から赤のロボットが姿を現した。


赤のロボットは、まるで太陽の光を受けた巨神のようにそびえ立ち、その存在感は圧倒的だった。

きらびやかな赤い装甲は鋭い光を反射し、彼の目にまばゆい輝きを放った。

そのボディはまるで動的な彫像のように整い、威圧感と力強さを一度に感じさせるものだった。


その巨体が一歩踏み出すたびに、大地は微かに震え、近くの木々がざわめく。

ロボットの動きは重厚でありながら滑らかで、その機械的な視線が獅子王アーサーに向けられると、鋭い冷気が全身を貫くかのような感覚に襲われた。まるで、彼の生存本能までもを試すかのような圧倒的なプレッシャーだった。


獅子王はその恐怖を必死で押し殺し、しびれがまだ残る拳を無理やり握りしめ、なんとか戦闘態勢を取った。

しかし、足も思うように動かず、この状態から動けるかどうかも怪しかった。


もう無理か、、、


――そのとき、不意に風に運ばれてきた女性の声が頭上から聞こえた。

「君はほんとにおもろいな」と、軽やかで明るい声。

そして、その声に続き、空中を舞うようにして焦げた赤髪が彼の目前を横切った。


その真っ赤な髪は、まるで炎のように揺れ動いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 06:00 予定は変更される可能性があります

ブレイブズストーリー @yoshiiiiio

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ