第5話 一難さってまた一難

「あつい」


 最深層のモンスター達の行軍の音の中に、綺麗な声が聞こえた。

 瞬間、ドラゴンの放った火球によって蒸し返す様な暑さをしていたその階層の温度が、一気に適温まで下がった。


「このくらいの温度で大丈夫?」


 高身長の金髪白眼の白人美女、リリー・ホワイトライトが十条静奈に問い掛ける。十条静奈はこくり、と小さく頷いた。


「大丈夫なら良かったわ!」

「無傷だ!すごいねぇ」

「間一髪間に合った形になるな」

「とりあえず、あの魔物達を倒しましょうか」


 事も無しにそう言ったリリー・ホワイトライトと、あきまと東叉郎が戦闘態勢に入った。


 その様子を、東雲春と、彼女が抱きしめているドローンカメラを通して現場を見ている者達は、ただただ呆然としていた。


「え、S級危険人物の……」


《前門の虎後門の狼》

《こーれは…ご臨終》

《うそ…?》

《もうだめしなないで》


 東雲春、そして彼女の配信を見ている殆どの人間は、東雲春の生存は絶望的だ、と考えていた。しかし、彼等は勘違いをしており、危険と言われている東叉郎ら三人は、見殺しや(蘇生したが)死ぬ様な思いをさせたことはあれど、ただの一人として探索者を殺したことはない。

 そしてもう一つ勘違いしているのが、東叉郎ら個人に対する注意喚起はあれど、彼らパーティに対する注意喚起ソレはされていないのである。


「わたし、がやる」

「了解」

「セナ様やるの?珍しいわね」

「加減が上手くなったからですか?」


 東叉郎達三人は、戦闘態勢を解き十条静奈の後ろに下がっていく。探索者協会長の言葉すら無視し、従わない彼ら三人が、一人の小柄で、覇気も存在感も無い少女の言葉に従い、後ろに下がる光景を見た東雲春とその視聴者達は、困惑やら驚愕やらで動きが止まった。


「やりすぎない様に、気を付けて!」

「できると信じてますよ姫様〜」

「最悪あきまもいるから、落ち着いて」


「うん」


 後ろから少女にエールを送る東叉郎達。

 それを見ている東雲春らは更に困惑する。


 深呼吸をし、綺麗に伸ばした右手を、右肩の右隣の位置に置く。

 命の危険を感じでいるからか、はたまた生存本能とアドレナリンによる物なのか……もしくはその両方か、それはわからないが、傍観者達思考が止まっていた者達の中で、僅かに、かつ誰よりも速く思考が復帰した東雲春は、『あきま』が言っていた、『手加減が上手くなったからですか?』という言葉を思い出していた。


(…?あれってどういう……)


 瞬間、ドラゴンの火球なんかよりも濃く、かつ何の感情も無い、何故か気遣いが僅かに感じる死の気配が、自分の首から上に伸びて来た。


ボッ!!!!!!


 と言う、空気を殴った様な音が聞こえ、衝撃が上下左右至る所から襲って来た。それを東雲春は、無防備に————————


(しぬっ!???!!?!?)


 受けることなく、ギリギリ避けることができていた。

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狂人どもの姫 不定形 @0557

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