第4話 得る
十条静奈が見に行くといって約三十分、東雲春が絶体絶命に陥ってから約二時間が経過した。
「わぁ……深層モンスターだぁ…」
東雲春は奇跡的に生きており、そして死んだ目をしていた。
《戻って来たけど、二時間じっとしてるの?》
《いや、二回場所変えたで》
《死んだ目してんなぁw》
《たのむ…!!助かってくれぇ…!!!》
大勢の野次馬と、ファンが少しの東雲春の配信はすでに数千万人以上の視聴者数を叩き出していた。ダンジョン内の異変、特に今回のような
(死にたくない…!まだやりたい事とか目標とか、いっぱいあるのに、死んでたまるか!深層モンスターが出てきてるけど、その分私も外に近づいてるんだから!)
ちらりとコメントを見て、有用な情報のみを汲み上げていく。ファンの言葉もアンチの言葉も野次馬の言葉も意識の外に追いやる。今はただ、命に関わる情報のみがほしいのだ。
それでも、十条静奈達が入って行った、というコメントは見逃しているのだが。
「ふぇ?あれって、ドラゴン……」
カメラが映し、東雲春が視認した瞬間、ドラゴンの口から極大の火球が吐き出された。
考えるよりも早く、東雲春はドローンカメラを掴み、即座に隠れていた岩陰の反対に避難した。
《あぶねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!》
《もうドラゴン出たの!?》
《顔必死すぎる》
《速すぎる行動》
隠れた直後に、とてつも無い大爆音が轟いた。間一髪、避けることができたのだ。彼女の鼓動はバクバクと、聞こえるほど大きく鳴っている。
(しぬかと…おもったぁ…)
カタカタと震えながら、カメラを抱きしめ小さく纏まる。
東雲春の正面を向いているカメラのレンズに映っているのは、大量の中層、深層のモンスターの魔石だ。
「ひぇっ」
背後の、遠くから足音が聞こえ、ちらりと顔を出して覗いてみると、深層の中でも特に深い最深層と呼ばれる所にいるような、最高ランクのモンスター達が所狭しと奥から進んで来ていた。
「走ったら、にげれるかなぁ…?」
声を震わせ、現実逃避気味に呟いた。そんな事をしても殺されるだけ、というのは誰もがわかっている。しかし、じっとしていても死ぬと言うのも当たり前だ。
救助を待つとか、そんな次元にはもう居ない。ただただ、死を待つのみである。
「あつい」
十条静奈達がそのダンジョンに居なければ、だが。
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