第3話 九死に一生

「あぁ?」

「どうしたの?」


 十条静奈達がカフェを出て一時間後。モンスター相手に無双していると、東叉郎が何かに気付いて声を出した。


「なんで中層のモンスターもいんだ?後多くね?」

「あら、確かに」

「言われるまで気づかなかったなー」


 十条静奈を囲んで布陣を作って歩いている彼らは、雑談を重ねる。


「明らかな異変ねぇ」

「そう言えば、職員が何か言ってた気が?」

「あー、確かに言ってた気がするな…なんだっけか」


「姫様覚えてますー?」

「ん?危ない、って言って、た、かも?」

「まあ、セナ様が何も感じてないしダイジョブでしょー」

「まあ、それもそうか」


 あまりにも楽観的な彼らは、そのままダンジョンの奥へと進んでいく。浅層、中層のモンスターなど寝ていても消し飛ばせるため、当たり前ではあるが。


「んー、もうほぼ中層だな」

「だねー。楽しくなってきたなー!」

「的にすらなれない雑魚がいっぱい出ても、嬉かないわよ」


 目に入ったモンスターを片っ端から塵にしていく。その間、十条静奈は彼女の最近のブームである折り紙をしていた。……側から見れば紙を折って破っては捨て、折って破っては捨ての、謎行為ではあるが。


「お!静奈様二回折れてるじゃねえか!」

「わ!ほんとだ!」

「姫様流石〜!」

「ふふ、ん」


 十条静奈、彼女は力加減が少しだけ、ほんの少しだけ(本人のプライドへの配慮)下手だ。そのため、折り紙や組み立てなどの繊細な作業を行い、力加減を覚えようとしている。少し前までは一回折る前に紙が半分になっていたので、二回折れるようになったのは成長なのだ。


 それから約三十分後。


「ん?中層のど真ん中で人の気配…隠れてるっぽいわよ」

「なんだ?炎上系か?」

「炎上系は隠れないでしょー」


 リリー・ホワイトライトが感じ取った気配。それは運悪く巻き込まれてしまった哀れな配信者、東雲春である。

 炎上系、とは要するに迷惑配信者の事である。承認欲求の亡者となった彼等は、よくスタンピードやイレギュラーに喧嘩を売るという終わっているとしか言いようのない行為をするのである。そんな事をして、もし仮に生き残っていたならば救助対象として、保護対象として戦場をより厄介にさせてしまう、社会不適合者だ。


「全然動かないから、多分巻き込まれた哀れな同業者ね」

「物凄い不運だねー」


 通常、異世界に飛ばされていると言っても過言ではないダンジョン内でインターネットは使えない。なのにダンジョン配信者が存在している理由は、世界を何個跨いでもネットが繋がる共振の魔石を使い作られた端末が作られたからである。

 共振の魔石は最低ランクの魔石でも作ることができ、探索者になった時そういう端末が一つ配布されるのである。そして、その端末の中にはダンジョン内の異変を知らせる機能があり、通常それが起動されると避難するのである。


 しかし、東雲春は運が悪かった。


 その機能が付けられている端末が、起動する寸前で壊れたのである。そのため逃げ遅れ、ダンジョンから出て配信を見たファンから知らされた時には時すでに遅く…今に至るのである。


「どうする?静奈様」


 通常、配布される端末は壊れない。そのため、そこにいるのは馬鹿以外の何者でもない、と東叉郎ら三人は考えていた。そんなやつ、助けなくても良いのでは?とも。


「見に、いこう。それでき、める」


 拙い話し方で、十条静奈は言った。

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