にはしないでよ!
「ちょっと、待ったあ!」
入口のドアが突然開いて、大声が響いた。
オッサンと僕はびくっとしてドアの方を見た。
女の人が目を真ん丸にして、こちらを睨んでいた。
オッサンが叫んだ。
「トラミっ!」
「お兄ちゃん、なに悠長に乾杯してんのよ!」
「お、お兄ちゃん?」
僕は驚いた。いきなりやってきた女性は、どうもオッサンの妹らしい。随分と年が離れているな。名前は『トラミ』? どこかで聞いたような……
「お、お前もしかして聞いていたのか?」
「全部聞いていたわよ、なに軽々しく諦めてんのよ!」
「いや、で、でも、この坊主が祠を壊しちまったから……」
オッサンはしどろもどろだ。
トラミちゃんが突っ込む。
「まだバルス効果が発動されるまで1時間くらいあるでしょう! どうして直そうと思わないの! 地球の、人類の危機なのよっ」
「いや、でも祠は割れちゃったらしいし、中の魂の光も消えちゃったって言うし……」
「見に行くことすらしないで…… 全力を注入すれば、再点灯できるでしょ! 祠もすぐに修理しなさいよ。諦めないで! そこの罰当たりなお兄さん、瞬間接着剤を探して! 急いで直しに行くよ!」
な、直せるのか。オッサン…… あんた本当に神様か? 僕は辺りをきょろきょろ見回す。
「しゅ、瞬間接着剤ね。えーと……」
「お客さん、これ持って行って!」
お店の人が大きなチューブの接着剤を僕に投げつけた。
瞬間強力接着剤と書いている。こんな大型のもあるんだ。
僕ら三人は店を出ると、一目散に希望の山頂へと走った。
◇ ◇ ◇
月明かりの元、壊れた祠の元にたどり着いた。
トラミさんがてきぱきと指示する。
「お兄さん、その割れた祠を接着剤で元通りの形に直して!」
僕への指示だ。さらに……
「お兄ちゃん! 魂の石を私と二人で再点灯させるよ。全エネルギーを石に注入して! 気合入れるよー」
そう言うと、石を前に二人で目を瞑って、石になにやら念を込め始めた。
それを見ながら、僕は割れた祠のかけらを1個ずつ接着剤で付け合わせていく。
十分も経った頃、魂の石に小さな明かりが灯った。
僕も祠を半分くらい修復できた。
「お兄ちゃん、ここからよ! 全力振り絞って!」
トラミちゃんもどうやら神様のようだ。オッサンと必死に念じ続けている。石の明かりは少しずつ明るさを増し始めている。僕も急ピッチで祠を直していった。
――さらに十分が経過した。
魂の石は光り輝き、宝石に戻った。二人とも汗だくである。
僕も祠を全てつなぎ合わせた。割れ目は痛々しいが、少なくとも形は元通りだ。
「ほら、魂の石が直った! 祠に入れて!」
修復が終わると、僕とオッサンは脱力してその場に座り込んだ。
「何とかなったな。 坊主」
「はい! あのトラミさん、ありがとうございます」
トラミさんは仁王立ちのまま僕らを見降ろす。
「お兄ちゃん、できたでしょ! 簡単に諦めないでよ!」
「わかったよ、トラミ」
「それから保管場所! ちゃんと考えて! スイス銀行の金庫とか、ホワイトハウスの地下室とか、色々あるでしょ!」
「わかりましたよ、トラミ女神様」
オッサンは大分懲りたようだ。でも原因は僕にもある。
「そして、罰当たりのお兄さん」
「はい、申し訳ございませんでした」
僕は平謝りだ。
「いいわよ。それより申し訳ないけど、あなたの事一目で気に入ったの」
「え”?」
「良かったら……私と付き合ってくれない?」
「え?? でもあなた様は女神様だそうで、僕はただの人間で……」
「関係無いわ。店の外からあなたをずっと見てたの。まさか祠を壊したとは思わなかったけど…… 運命の人だわ」
うーん。トラミさんは外観は普通に可愛い女性だし、僕を気に入ってくれるなら、まあ人間でなくてもいいか。人類の恩人だしね。
「はい、あの……喜んで。お願いします」
「やった! これからよろしくね」
「坊主、トラミは…… あ、いやいい。妹をよろしくな!」
オッサンはトラミさんのことで何かを僕に忠告しようとしたらしいが、僕は一度は死んだ身と思って何でも受け入れようと思う。
こうして世界は救われたのだった。
トラミさんの満面の笑顔が眩しい。
スーパームーンが後ろで輝いていた。
「あの…… お兄さんのお名前はもしや?」
今頃、僕が訊いた。
「俺か? トラえもんだ」
「やっぱり……」
―― 終わり ―― (今度は本当です)
あの祠って……(愕然) 🌳三杉令 @misugi2023
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