第34話 出社

「お前たちの先が思いやられる」と達也。


「先の心配をしなきゃいけないのは、父さんのほうよ」と沙耶。


「どういうことだ」と達也。「離婚はしないと言ってるだろう。」


「そんなことじゃないわ」と麻衣。「仕事のことよ。」


「仕事だと?」と達也。


「会社は順調なの?」と麻衣。


「問題はある」と達也。「だがこれまでも危機はあったが乗り越えてきた。だから心配はない。」


「気休めだわ」と沙耶。


「何が言いたい?」と達也。


「今のままだと、今月末の社債の償還日に不渡りが出るわ」と沙耶。


「資金繰りが厳しいのは事実だが、なぜお前たちがそれを知っている?」と達也。


「ハッキングしてるもの」と麻衣。「勝則の方法で。」


「何だと!」と達也。「それは犯罪だ!」


「資金繰りの話は本当なの?」と真知子。


「母さんが出社していないこの三か月の間に、負債が雪だるま式に増えたのよ」と麻衣。


「なぜそんなことに!」と真知子。


「新製品が欠陥品で、返品が倉庫に山積みなのよ」と麻衣。


「だが何とかする!」と達也。


「今月末を切り抜けても、負債は増える一方よ」と沙耶。「年内いっぱい持てばいいほうだわ。」


「欠陥品なんて今まで出したことがないのに」と真知子。


「生産管理と製品のチェックは母さんの仕事でしょ?」と沙耶。


「担当者がいたはずよ」と真知子。


「役に立つ人がどんどんやめてるわ」と麻衣。「副社長の母さんが出社拒否してるうえに、社長秘書兼妾が威張ってるような会社なんて見限られて当然よ。」


「あなたたち、なんでそんなことまで知ってるの?」と真知子。


「会議の議事録を全部読ませてもらってるから、今なら母さんより会社のことをよく知ってるわ」と麻衣。「それから、オンライン会議の録画も見せてもらってる。」


「あなた、どうするのよ!」と真知子。


「だから何とかすると言ってるだろう!」と達也。


「これから出社するわ!」と真知子。


 二人はあわただしく家を出て行った。


「いい気味だわ」と麻衣がつぶやいた。


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家族はもういらない G3M @G3M

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