第33話 ダイニングルーム(11)
「それで、お前たちはどうしたいんだ?」と達也。
「分からないわ」と麻衣。「勝則次第よ。」
「兄さんは何かを決めるのに時間がかかるわ」と沙耶。「だから今は何とも言えない。」
「勝則のことじゃなくて、お前たちのことを聞いてるんだ」と達也。
「だから勝則次第って言ってるでしょ」と麻衣。「私がどうするかは勝則と話して決めるわ。」
「話してどうなる?」と達也。「あいつは自分で何も決められやしない。」
「いいのよ。それで」と麻衣。「あの子にかまってあげるだけでいいの。」
「あいつの好きにさせたらいいだろう」と達也。
「私がそうしたいのよ」と麻衣。
「なぜそんなに勝則にこだわるんだ?」と達也。
「それは野暮な質問だわ」と麻衣。「もう気がついているんでしょ?」
「出来てるのか、お前たち?」と達也。
「真に受けてるのね」と麻衣。「かわいい弟を放っておけないからよ。父さんと母さんを信用できないし。」
「どこが信用できないんだ?」と達也。
「勝則が野垂れ死にしても、仕方がなかったって思うんでしょ」と麻衣。「あいつのためにできることはやったんだって、父さんと母さんは納得する。そして悲しんだふりをするのよ。」
「そんな風に考えてるのか?」と達也。「俺だって勝則のことを心配している。あいつが滝に飛び込んだから離婚を考え直したんだ。」
「どうかしら」と麻衣。「勝則が家出してた間、父さんと母さんは平静だったわ。滝に飛び込んだのがこたえたのは、父さんが溺愛する伽耶と沙耶が一緒だったからでしょ。」
「溺愛などしていない」と達也。「四人とも平等に愛している。」
「勝則が帰ってきた次の日の朝、オルタナティブスクールの人を呼んだのは伽耶と沙耶を取られたと思ったからでしょ」と麻衣。
「何を言うんだ!」と達也。「あれは親として必要だと思ったからだ。」
「伽耶と沙耶がいなくなった時の慌てぶりったらなかったわ」と麻衣。「勝則がスクールから脱走したことなんて、どうでもよくなってたわ。」
「それは伽耶と沙耶が女の子だからだ」と達也。「誘拐されたのかと思ったんだ。」
「警察だの興信所だの血相変えて駆けずり回って、おかしかったわ」と麻衣。
「お前はあの時、伽耶と沙耶が勝則に会っていたことを知ってたのか?」と達也。
「知らなかったわ」と麻衣。「だけど、タイミング的に勝則が伽耶と沙耶に会いに来たに決まってるじゃない。」
「なら、なぜ言ってくれなかったんだ?」と達也。
「父さんは人の言うことを聞くような様子じゃなかったじゃない」と麻衣。「それに伽耶と沙耶の逢引の邪魔なんかしたら、あとで殺されるわ。」
「逢引だと?」と達也。
「察しが悪いのね?」と麻衣。
「何だと!また俺をからかうのか!」と達也。
「姉さん、もういいわよ」と沙耶。「はっきり言うわ。私たち、兄さんのことが好きなの。」
「どういう意味だ?」と達也。
「兄さんのそばに、ずっといたいっていうこと」と沙耶。
「だからといって添い寝するなんて異常だ」と達也。「それとも奴と寝るという意味なのか?」
「そうね、兄さんが私を女として見たいのなら、それでもいいっていうことよ」と沙耶。
「ふざけるな!」と達也。「そんなことが許されると思っているのか!」
「今度は警察に通報する?」と沙耶。「だけど何もないわよ。」
「まだ何もしてないのか?」と達也。
「ええ、まだよ」と沙耶。「兄さん、奥手だから。」
達也がガバッと立ち上がりかけて、真知子が止めた。「お父さんを挑発しないで。冗談なのでしょう?」
「冗談で滝に飛び込んだりしないわ」と言って沙耶はそっぽを向いた。
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