解説

 どうも、白い少女とともに白い箱の中にいた、あの【スクリーン】です。



 今回は、彼女が3日間を過ごした白い箱が、いったいどんな意味を持っていたのか、そして、少女がどのような背景を持った人間だったのかを解説していこうと思います。



1、少女の人生とメタファー


 白い箱は、【メタファー・ミニチュアガーデン】という名前でした。これは、日本語に訳すと、【暗示の箱庭】ということになります。つまり、この箱の中の出来事、物は、すべて、何かしらの意味を持った暗示なのです。


 物語では深く語られなかった少女の人生について、裏話を以下に語りましょう。



 少女は、通っていた学校に行っていませんでした。それは、いじめとか、親からの虐待があったというわけではなく、人生に閉塞感を感じていたからという、個人的な理由によってでした。



 最後のシーンを覚えていますか?少女が『ここは地球だが、キセキの【青い監獄】なのかもしれない』と思ったシーンを。


 【青い監獄】とは、少女が世界に対して抱いていた閉塞感を、まさに言い表した表現なのです。



 また、少女は2日目に、友達と遊ぶ約束をしていたと言っていましたね。彼女にとって、その【親友ちゃん】は、彼女の閉塞感から来る苦しみの、良き理解者だったのです。序盤にフランス人形をぎゅっと抱きしめたのは、そんな親友に会いたいという寂しさの表れでした。



 ちなみに、序盤に出てきた【長針と短針が死んだ時計】は、12時30分を指していますが、これは、少女が大空へと踏み出した時刻……つまり、少女が飛び降り自殺した時刻を表していたのですよ。だから、長針と短針が「止まっていた」ではなく【死んでいた】なのです。少女の死を、どことなく暗示する表現だったのかもしれません。




2、物語のテーマ



 少女は、一日目、机に座って、私の映した文字を必死に書き写し、二日目は、スーツに身を包んで必死に書類のチェックとサインを行い、三日目は、白いベットの上で点滴の管に繋がれて、メモ帳に、親友ちゃんや先生、両親に宛ててメッセージを書き残していました……


 お気づきですか?この三日間は、【人生】を端的に暗示しているのですよ。


 手首が痛くなるまで机にしがみついて勉強を行い、奴隷のように働かされ、老化した人間は、病院という監獄の中、ベットの上に寝かされ、点滴という「鎖」につながれて、自由なんて無いまま命の灯の消える時を待つのみ……



 このような人生、幸福には見えません。少なくとも、私には。


 けれど、現在の日本社会に住まう人々の多くが、少女の三日間のような人生を歩み、それを「美徳」である、それこそが理想的な「ライフコース」だと意識的に教え込まれているのです。



 この物語は、【死】や【時間】という表立ったテーマ以外にも、痛烈な社会風刺を含む暗示が、隠れたテーマとして設定されているのです。


 あと、日にちが進むにつれて、箱が狭くなっていたでしょう。あれは、仕事による時間の制約や、歳を取ることによる身体の衰えなどで、自由に行動することができる物理的な距離が制限されていくという、人間にとって普遍的な焦燥を暗に表現しています。


 3日目なんかは、身体的自由の束縛が特に顕著です。現代の【病院死】というのも、考えものですね。


 機械のように管に繋がれ、機械が燃料や充電をするように食事と点滴を与えられ、時が来れば、機械のように動かなくなる。悲しいものです。それが、たとえ……



いじめを受けた少年少女であっても、



医学界の偉人であっても、



温泉旅館の支配人であっても、



狂乱の世界に迷い込んだ会社員であっても



白色の少女であっても、



――私であっても、



似た結末が待っているのでしょう。



 少女は、そんな人間の行く末の未来を、白い箱に閉じ込められる前から、思い描き憂いていたのかもしれません。




3,終わりに


 人生に閉塞感を感じて、白い箱に閉じ込められた少女は、結局、箱からの脱出こそ叶っても、自殺の道を歩みました。私たちが広々と感じている、この青い地球が……過ごしている社会が……じつは、白い箱よりも強固な【監獄】なのかもしれません。




 残るメタファーの考察は、私よりも頭の良い方々に任せるとして……



 それでは、またどこかでお会いしましょう。




 おやすみなさい。お疲れ様でした。

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3日後に死ぬ少女 猫舌サツキ★ @NekoZita08182

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