〈10話〉魔王再び


知らない女の魔族が玄関に立っている。


全く気づかなかった。ノックの文化がないのだろうか?


「あ、あのう。こんな夜分にどちら様でしょうか?」


「心配しないで、君のことはザリアから聞いてるよ。勇者殺しのアキくん」


おい変なあだ名つけるなよ。


ザリアは俺がここにいることを知ってるのは1人だけだと言ってたけど、この人がそうなのだろうか。ザリアのことを呼び捨てにしているし配下って感じでもなさそうだけど。


食糧を持ってきたようにも見えない。それにまだ1週間は経っていない。だとすると何の目的で来たのだろう。


まさか暗殺?暗殺なのか?やめてよせっかく家綺麗にしたんだから!


「そう身構えない、私はちょっと君の様子を見に来ただけだよ。ザリアには内緒でね」


悪い想像をして警戒心むき出しな俺とシアを宥めるように女の魔族はそう言った。


「失礼ですが、ザリア様とはどういったご関係で?」


「そうか、まだ名前も名乗っていなかったね。私はリーシェ。表向きではザリアの配下ということになっているけど」


リーシェは瞬き一瞬の間に俺の前に移動し、胸ぐらを掴んで鼻先が触れそうな距離まで顔を引き寄せた。


「私は序列第5位の魔王だよ」


は?


待って顔が近い!いい匂いがする!


なんなのキスするの!?


しても良いけど良いの!?


その時、俺とリーシェの間にシアが飛び込んで2人の距離を離した。シアは俺が危ないと思い助けてくれたのだ。


「すまんシア、ありがとう」


俺の同様と焦りが伝わったのだろう。


そうだ、冷静になれ佐々木アキ。今は女性が近くに来たぐらいでドギマギしてる場合じゃないぞ。


さっきなんて言ってた。


なんか、魔王、とか言ってなかったか?


どういうことだ。なんでそんな大物が俺の元に来る必要がある?そもそも魔王だなんて言う秘密をなぜ俺なんかに話す?


ダメだ分からない。


当の本人であるリーシェはシアのことを捕まえて頬をムニムニ掴んで遊んでいる。シアは嫌そうだが抵抗できていない。


「あのう、リーシェ様。魔王なのに身分とかって隠せるものなんですか?」


まずは先にこのことを聞いておきたかった。


「序列第5位は実態のない魔王で知られてるんだ。それに私には軍も統治する大陸もないから身分がバレる心配もない」


それは最早魔王なのだろうか?


とは聞かなかった。


きっと俺には分からない基準があるのだろう。


訳ありの魔王とか怒らせたくないしね。


「俺なんかにバラしちゃって良かったんですか?」


リーシェはシアを膝の上に無理やり置いて頭をわしゃわしゃしながら笑みをこぼす。


「いいよ!だって、、、」


瞬間、殺伐とした魔力のオーラがリーシェから吹き出した。


シアの頭の草がねこのしっぽのように逆立つ。


「今からする話次第ではどうせ殺すし!」




、、、、




どうやらまだ俺の命は綱渡り中みたいです、、、

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間違ってマンドラゴラで勇者を撲殺した俺は、人間との和解を諦めて魔界でマンドラゴラ栽培することに決めました。 @yuki_librar

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