日常訓練
「っしょ……っしょ……」
「テンポよく歩けてる。いい感じ」
すり足でゆっくりと、神崎は東雲の上腕二頭筋を手すり代わりに持ち、東雲は神崎の脇下に手を入れ支えている。
バランスを崩して転倒しそうになっても、防止するためだ。
神崎は腕力で転倒するのを耐え、東雲はそんな神崎を支えられるようにすぐに力を入れられ、負担にならない脇下に。
「わ!?」
「ちょ!?・・・大丈夫か?」
「だ、大丈夫。えっへへ。充電してて忘れてた」
神崎は苦笑いしながら、自分で充電していた携帯機のコードに足を引っかけ、転倒しそうになったが、そこは東雲が支えていたおかげで、転倒までいかずにヒヤリハット案件で済んだ。
日常を過ごす際、気を付けるべき点は扇風機や掃除機、ヒーター等のコードのある線状の物たちだ。普段は引っ掛けても下肢筋力で耐えられる。それか逆にコンセントを抜く勢いだってある。
だが下肢筋力が低下し、すり足に近い人が歩く場合はそのコードを引っかけて転倒に繋がる。踏ん張れないからだ。
なのでコードは壁端にまで引っ付けるか、ガムテープ等でコードの下に足が入らないように対処する必要がある。
今回のヒヤリハットは充電のコードの確認を怠った事くらいだろう。
「次どうするー?」
「お腹空いたー」
「んじゃご飯にすっか」
そう言って神崎の家の冷蔵庫を東雲は勝手に物色する。
普通なら憚れるだろうが、長いこと付きっきりの介護をして神崎の両親の負担を減らしてるから、許可が出てる。
「私も参加できるものにしてよー」
「はいはい」
そう言って物色した結果、ニンジン、ピーマン、玉ねぎ、キャベツと、野菜が出てきた。あまり油っこい物は神崎の胃腸に関わるから、野菜が多い。
「よし、野菜の蒸し焼き作るか。ニンジン切って置いてくれ」
「はーい」
東雲はそう言って神崎専用のテーブルにまな板と包丁と野菜を用意し、東雲自身はフライパンと塩、コショウを用意する。
神崎は用意してもらったものでニンジン、玉ねぎ、ピーマン、キャベツと順番に一口サイズに切り分けていく。ニンジン、玉ねぎは外皮を剥いでからピーラーで皮を剥いでから一口サイズに包丁で切り分けていく。
「うー目が染みるー」
そう言いながらも玉ねぎを一口サイズに切り分ける。
東雲はフライパンに火をつけ、神崎が切り分けた野菜を入れる。その後、水を入れて沸騰したら塩、コショウをを加えて蓋をして中火にする。
フライパンから目を離さず、じっくり蒸してから蓋を取る。蒸気から良い匂いをさせながら、東雲は野菜をそれぞれの皿に盛りつける。
「「いただきます」」
東雲と神崎は塩とコショウで味付けした野菜の蒸し焼きを食す。
塩とコショウの控えめな味付け。そのシンプルさが、かえって贅沢な一皿に感じられる。
「うーん美味しい」
「それもだけど、共同作業が出来るの楽しいよぉ」
会話に花を咲かせながら、昼食を済ませる。
皿やフライパン等は東雲が洗う。時間経過え冷えたフライパンを使わない新聞紙で拭き取ってから洗剤で洗い、洗ったものは神崎に拭いてもらって、元の場所に戻すのは東雲に任せる。
「東雲ー。夕飯の買い物に行こうー」
「ん、ちょっと早いが良いか。服どれが良い?」
東雲はタンスの引き出しを開けて、神崎に着ていく服を確認してもらう。
自分勝手に決めず、本人の今日の気分に合わせて着る服を合わせる。オシャレしたいのならさせるのが良い。
それとは別に、もしもの時の為にもう一式も選んでもらい、カバンに詰める。
「よっしゃ、着替え終えたしいこー」
「先にトイレ終わらせとけ」
「あ、そうだった」
えっへへと舌を出しておどけながら神崎は笑い、トイレまで誘導する。
急いでた朝と違い余裕がある為、途中から本人に任せる。
「準備出来たー」
「っし、行くか」
「行ってきまーす」
玄関の鍵を閉め、神崎を車椅子に座ってもらい、東雲はゆっくりと車椅子を押していく。二人の買い物が始まる。
俺は天真爛漫な笑顔まで失いたくなかったから近くにいる のんびりした緑 @okirakuyomu
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