休日の日常
「東雲、東雲、起こして」
「・・・朝か、おはよう神崎」
「おはよう、お、お願い早く起こして」
日が昇り、日光がまだ柔らかい暖かさな朝
神崎が東雲を覚醒を促し、起床させる。
普通ならば勝手に起きて自分で行動するだろうが
神崎は下半身不随で一人での起床が困難だ。
転倒転落等をすれば自力で立ち上がるのに時間がかかる。
なので誰かの助けを必要とする
添い寝していた東雲を覚醒させて起こしたのもそういう理由だ。
「あー・・・分かったすぐに向かうぞ」
「お、お願い・・・」
顔を赤くして東雲を急かす神崎
手を股間に持って行ってもじもじしている姿を見て東雲は
神崎が排泄したいという意思表示を理解した。
長い付き合いで覚悟を決めてくれてるからこそできる信頼の現れだろう。
普通なら思春期真っ盛りな男女がこんな事を頼むとは思えないからだ。
車椅子に移乗介助を行い、恐怖を感じない程度には素早くトイレに向かう。
「急いでるから立ったらそのままズボンずりおろして・・・」
「え、あ、おう。神崎が良いのなら」
排泄はある意味、裸体を見られるより嫌な事だ。
排泄物を直接出す所を見られるなんて屈辱も良い所で尊厳破壊と言っても良い。
ただ神崎は急いでいるから見られる覚悟で男である東雲におろしてと頼んだ。
トイレに着き、急いでるからと言って東雲は神崎を無理やり立たせるようにはせず
掛け声と共に合わせて立ち上がり
取り付けたてすりを神崎はしっかり握ってもらい
東雲は素早くズボンをおろし、神崎の下肢部を露出させ
腰を掴んで便座に座れるように誘導させる。
「座った!」
「じゃあ俺出るから!」
「了解!」
ぎりぎりと言った所か。
排尿する音が聞こえると同時に東雲はトイレから出て終わるのを待つ。
介護する上で対象者を目から離すのはよろしくない。
だが排泄は普通見られたくはないから
いると緊張や嫌悪感から失禁してでもしなくなり
場合によっては介護抵抗がある。
東雲はそこを理解し、神崎のプライバシーを配慮した結果出るを選択した。
「東雲ー終わったから入ってー」
「分かった。入るぞ」
コンコンコンとノックをしてから間を開けてトイレに入室する東雲。
神崎の肝心な下肢部は備え付けられているタオルで隠し
見えないようにしている。
落ち着いた事でやはり見られるのは恥ずかしいと神崎は思い
下肢部を隠す選択をしたが当然と言える。普通は見られたくない。
東雲が神崎の横に回って両脇に腕を差し込み
掛け声と共に立ち上がって立位が安定できるようしっかりと支える。
その際に視界が下に行かないようにして。
神崎は立位が安定したのち、ズボンを上げる。
「ズボン上げた。車椅子に移るよ」
「了解」
その言葉を合図にゆっくりと車椅子の方に移る。
下肢部と腹筋が効きにくいだけで、ただの排泄をこれほどまでに苦戦させられた。
「間に合って良かったよー」
「わりぃな起きるの遅くて」
「夜中に一度覚醒させちゃった私も悪いからお相子ということで一つ」
「それに乗ってやろうじゃん」
そう軽口を言い合い朝食を食べにキッチンへ向かう。
神崎の両親は二人分の朝食だけ作って既に仕事に出たらしく既に家にいない。
置手紙に『朝食置いておきます』と書いてあった。
内容は卵焼き、みそ汁、たくあん、焼き鮭と言った和食だ
「「いただきまーす」」
「いやー早速良い事あったよ」
「お。なんだ?」
「東雲がいたから漏らさずに済んだ」
「だろ?」
東雲ははにかみながら返事を返した。
神崎が夜中の良い事なんて一つもないと悲痛な声で言ったのに対し
東雲は一日自身がいるから良い事があると返してる。
朝からいて対応できた結果、失禁と言う恥ずかしい目に遭わずに済んだので
良い事あったと言って良いだろう。
食事自体は手や腕が動く時点で気にする事は無い。
しいて言うなら腹筋が効きにくいので
前のめりに食事をするとそのまま机に倒れこむ可能性といった所か。
食事を終え、歯磨きを済ませた二人
「今日は何する?」
「うーん、やっぱり運動だねぇ」
「じゃあ、立ってみるか」
「うん、しっかり支えててよぉ?」
介護する上で重要な事
それは存残能力を最大限活かす事
両足と腹筋が麻痺で動かしにくいとはいえ
動かない訳では無い。
ならばしっかりと運動し、鍛える事である程度は維持ないし向上が可能だ。
ここで面倒だからと、もういいと諦めて全介助にすると
あっという間に下肢筋力が衰え、ホントの意味で立位が不可になってしまう。
神崎は動くのなら、立位保持や歩行が可能なら鍛えたいと願った。
だが支え無しだと転倒リスクがある。
支えを頼み、万が一転倒しても
起き上がらせてくれる東雲という存在を神崎は頼りにしている。
「よーしやるぞー!」
「支えは任せろ」
二人の休日はまだ、始まったばかりだ。
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