私は貴方にだけに笑顔を見せる
「・・・嘘つき」
神崎は東雲を罵倒・・・するにしては
甘えた声で言っていては罵倒してる様には聞こえないだろう。
それもそのはず
寝たら離れると言った東雲が手を握ったまま
器用に椅子同士を繋げてベッド代わりにして眠っている。
離れる気なんか無かった癖にと嬉し半分恥ずかしさ半分。
だから甘えた声での罵倒。
だが同時に思ってしまう
こんな体にした、飲酒運転をしたアイツが憎いと。
普通の日常を壊され
誰もが普通に出来る事を
時間と手間をかけてしなければならなくなった日常にされた。
ただベッドから起きるだけにも関わらず
効きにくくなった腹筋のせいで誰かの力を借りないと起き上がれなくなった。
沈むベッドマットだと延々ベッドマットに囚われるせいで
固いベッドマット以外を使う事ができなくなった。
好きな運動もできなくされ、ライバルと二度と並び立つ事が出来なくなった事
ただ普通に電車やバスを利用するだけで舌打ちが飛んでくる日々。
排尿、排便感覚はあれど我慢が効きにくくなり
自己での排泄すらままならなくなり
パットをつけなくてはトイレに間に合わず漏らす可能性が常に孕む屈辱の日々。
腹筋が効きにくいから場合によっては排便ができず詰まり
ベッド上で掻きださなくてはいけない事も出てきた。
大丈夫と分かってはいてもお尻の中を、腸を弄られる恐怖。
まだ若いのに可哀そうに・・・と憐れまれる日々。
アナタの為にしようとしてるのに!と
善意の押し付けでこちらの尊厳を破壊してる事を気づかない同級生共。
あれだけ寄ってたかって恋人になってくれと付きまとわれたのに
いざこんな体になった途端、面倒と切り捨てて他の女に向かった男共。
全部、全部が憎い
夜中でセンチメンタルになった事で増幅した感情が暴れだし
腕を振り回してベッドを叩く。
何度も何度もたたく。
八つ当たりするように、殺意すら籠った拳でベッドに拳を振り下ろす
こんな体になりたくなかったと嘆くように何度も。
「神崎!落ち着け神崎!」
「はぁ・・・はぁ・・・し、東雲・・・?」
神崎の振り回してた腕が止まった。東雲の声に反応したことによって。
普段の東雲ならしないだろうに神崎を抱きしめていた。
暴れた事で東雲が思わず反応したのだろう
「大丈夫、明日はきっと良い事がある。」
「無いよ、良い事なんて一個も」
悲痛な声で東雲に訴える神崎、しかし
「良い事あるよ。明日休みだから一日俺がいる」
なんて、臭いセリフだったか?と照れ臭そうに東雲は語る。
神崎は暴走してた事で隣にいた東雲を見落としてたのだろう
彼だけは、暴れる私の近くに居てくれてる。
周りと同じようにしてしまえばいいのに
彼は自身から日常を歪めてこちらに寄り添ってくれた。
初任者研修修了の証を見せてきて、これが俺の一つ目の覚悟だと言って。
肌を見せたくないから、最大限見せずにできる方法を模索してくれて
排泄も途中からは私に任せて
終わるまでどこかに待機しつつ、排泄を見ないようにしてくれて。
彼が私の日常を支えたいという思いが伝わってくる。尊重してくれてる。
「・・・ごめん、ちょっとあの飲酒運転野郎を思い出したらつい」
「あー・・・まあ生き地獄を味わってるからざまぁみろって思っとこうぜ」
損害賠償、慰謝料、その他もろもろが全て降りかかり
社会的信用も無くしたアイツはアイツで今頃
神崎と違った地獄の日々を過ごしてる。
「そう思う事にする・・・わがままばっかりで悪いけどさ、このまま一緒に寝てよ」
「わがままプリンセスの思いの通りに」
「おちょくるな」
「わりぃわりぃ」
そうおどけながら、体位交換を兼ねて神崎を右側臥位にする。
右側臥位にした状態で東雲は神崎を抱きしめて寝る事にした。
「これ拒絶するなら今の内だぞー」
「今は人肌恋しいんでいいでーす」
とついでにと神崎は東雲に笑顔を見せながら
「ありがとう、おやすみ」
「・・・あぁ、おやすみ」
お礼を言い寝る事を伝える
神崎は瞼を閉じた。
彼の言葉を信じよう
明日はきっと良い事があると
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