4話 初めての戦い 2


俺は廊下を全速力で駆けた。背後から迫る敵の足音が響く中、心臓の鼓動が激しく高鳴る。銃声が後ろで鳴り響き、小銃の弾が俺の体を掠めていくのが感じられる。


(痛くないってわかってても、銃で撃たれるのはすごく怖いな……)


 息を切らしながら、俺は踊り場までたどり着くと、すぐに身を伏せて射線を切る。タイミングを計っていた新田さんが、教室の中から飛び出し、敵の背後を取った。次の瞬間、彼女の放った矢が敵に突き刺さる。


「何っ!?」

 不意打ちを食らった敵は驚き、動揺している。俺はその隙を逃さず、隠れていた場所から飛び出すと、気を取られている敵を一気に切り倒した。


「和泉君、ナイス!」

 新田さんが嬉しそうに声をかけてくる。


「気を抜かないで、新田さん!まだもう一人いるはずだ!」


「もらったぜっ!!」

 その声が響いた瞬間、廊下の窓ガラスが大きな音を立てて割れた。大柄な男が窓を蹴破り、スレッジハンマーを振りかざしながら新田さんに突っ込んでいく。


「きゃっ!?」

 新田さんが悲鳴を上げる。俺はその光景に息を呑み、スレッジハンマーを持った男に向かって猛然と切りかかった。


「おっと、甘いぜ!」

 男は余裕の笑みを浮かべながらバックステップで俺の攻撃をかわし、そのままスレッジハンマーを振り回して反撃してきた。俺は避けきれず、ハンマーの衝撃で吹き飛ばされ、背中を強く打ちつける。


「ぐっ……!」

 体中に痛みが広がるが、今はそんなことを気にしている暇はない。


「和泉君っ!?」

 新田さんが俺を心配して叫ぶが、男はすぐに彼女の方へ向かい、再びハンマーを振り下ろそうとする。


(新田さんが危ない……!)

 俺は咄嗟に立ち上がり、大柄な男に向かって再び駆け出した。だが、男はその動きに気づき、新田さんに回し蹴りを入れて後方に飛びのく。大柄な体とは裏腹に驚異的な俊敏さで、バク宙をして俺の頭上を飛び越え、着地すると再びこちらに突進してきた。


「このまま決める……!特殊能力ワンオフ・アビリティ発動っ!」

 男はスレッジハンマーを掲げると、電流のような光が走り、武器全体がバチバチと光り始めた。そして、その雷を纏ったスレッジハンマーが俺に向かって振り下ろされる。


「イシュクル!!」


(まずい……避けないと。でも、この狭い廊下じゃ逃げ場が……)

 必死に逃げ道を探すが、廊下の両側は壁に挟まれている。選択肢がない……いや、ある!俺は瞬時に決断し、男が窓から入ってきたのと同じ方法を取ることにした。勢いよく廊下の窓を蹴破り、そのまま外に飛び出した。


(ここは三階……普通に考えれば自殺行為だろうけど……!)


「くそっ!!」

 俺がいた場所に雷を纏ったハンマーが叩き込まれ、壁が砕ける音が背後から響く。しかし、俺は窓の枠に手をかけ、なんとか落ちるのを防ぐ。そのまま必死に力を込めて体を持ち上げ、再び廊下に戻った。


(無茶なことをしてるのはわかってる……けど、自然と体が動いてる……)


すぐに俺は大柄な男に向かって強烈な蹴りを入れた。男は一瞬怯むが、そのままスレッジハンマーを再び振りかざしてくる。迫る鉄塊の軌道を読み取り、俺は素早くしゃがみ込んでそれを避けた。すれ違いざまに、男の足元に足払いをかける。バランスを崩した男は、重い体を支えきれずに床へ倒れ込んだ。


「貰った!」

俺は即座にバスターソードを呼び出し、倒れた男の胸元に向かって突き立てた。剣先は男の体を貫いているように見える――実際にはその感触もないのに、目の前にははっきりとそう描写されているかのようだ。


「何とか勝てた……」


「す、凄いよ……和泉君、ホントに初めてだよね?」

 新田さんが目を丸くして驚いている。


「いや、今回はただ体が思った通りに動いてくれただけさ……何か、いつもより体が軽く感じるんだ。」


「ああ、それってね。粒子のおかげだよ。ゲームらしくするために、身体能力も強化してくれるみたい。すごいよね!」

彼女は説明してくれるが、俺は少し戸惑った。


「え、何それ……粒子って怖すぎだろ、なんでもありじゃん。」


思わず漏れた言葉に、二人で顔を見合わせて苦笑い。AFWの世界は、思っていた以上に俺の知ってる現実とは違う常識で動いているらしい。

 新田さんは特殊能力ワンオフ・アビリティで、自分と俺のHPを回復しながら、何かを確認している。淡い青い光が俺たちを包み込み、身体の疲労が少しずつ和らいでいくのが感じられた。


「どうやら今のところ残り58人で27組のペアが残ってるらしいよ」


彼女の言葉に反応して、俺も右目を2回ウインクしてメニューを確認する。視界に浮かび上がる情報が、今の状況を冷静に教えてくれた。


――――――――――――――――

和泉宏紀いずみこうき

HP 167/200 SC 170/200

AF:バスターソード

OA:変幻

生存者 58名 残りパーティー 27組

――――――――――――――――


「半分近く減ってきたね」


俺はその数字を確認しながら、メニューを閉じた。戦況はまだ厳しいが、焦ることはない。周囲の静けさが、次の戦いの訪れを予感させる。新田さんの回復のおかげで、俺の体もだいぶ楽になってきたが、それでも緊張は消えない。


まだ使用していない俺の特殊能力ワンオフ・アビリティ――一体どんな能力なのか、期待と不安が入り混じる。自分がどんな力を持っているのか、いまだに完全には理解できていないからだ。


(出来れば新田さんが言ったように、強力なモンスターとかに変身できたらな……それならかなり戦えるだろうけど)


自分の力を試す瞬間は、まだ先にあるのだろうか。頭の中でいろいろと考えながら、俺は周囲の警戒を怠らずに、次の行動を決める準備をしていると


【これより行動範囲を制限してまいります。これより行動範囲を制限してまいります。プレイヤーの皆様、行動範囲を確認し移動を開始してください。】


無機質なアナウンスが校舎内に響き渡る。俺たちが立っているこの場所も、すぐに範囲外になるのだろう。


「行動範囲を狭めるのか?」と俺は反射的に口に出す。


「人数が減ってきて、エンカウントしづらくなったから、範囲を狭めてきたね」新田さんはため息をつきながら言い、再びメニューを開いてMAPを確認する。


周囲の壁に映し出される立体的な地図が、現在の安全圏とそうでない場所を色分けしていた。俺たちがいる場所は、徐々に赤く染まっていく。ここがもうすぐ危険地帯になることを示していた。


「困ったなあ……ここ、範囲外みたい。結構移動しないといけないね」


新田さんの声に焦りはないものの、状況の深刻さは変わらない。俺は彼女に向かって尋ねた。「どこら辺まで?」


「えーと……あっちの反対校舎まで移動しないといけないみたい」地図を指差す新田さんの表情には、少しだけ不安がよぎっていた。


「なら急ごう」


俺は彼女の指す方向を確認する。俺達は反対校舎まで移動しようとするも唐突に廊下が爆発した。爆風が巻き起こり、爆音が響く。煙と埃が立ち込める描写が映し出される中、俺と新田さんは咄嗟に立ち止まった。


「な、なに……?」新田さんが震える声で言う。


「爆発!?どこから攻撃が……」俺も状況がつかめず、辺りを見回す。すると、その瞬間、俺の頬をかすめるように銃弾が横切った。鋭い風切り音が耳に残る。


(外から!?)


俺はすぐに壁際に身を隠し、射線を切る。撃たれた方向を注意深く探るが、目に見える敵はいない。だが、再び銃弾が自分の横をかすめた。


「もー、どこから攻撃してきてるの!」新田さんは混乱しながら頭を抱え、俺の隣にしゃがみ込む。


俺も彼女と同じく周囲を見回しつつ、冷静に状況を分析する。今までの銃弾の角度と飛んできた方向を思い返す。心臓が早鐘のように鳴る中、俺は一瞬の間に判断を下した。


(撃たれた方角的に……あっちの反対校舎側からだよな……)

 そこから遠くの建物が見える。そこで、何かが俺たちを狙っているのか――。俺は新田さんに小声でささやいた。「向こうだ、反対校舎から狙われてる」


「時間がないのに……」新田さんの声には焦りが滲む。周囲の状況がどんどん緊迫していく。

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変幻のアーティファクト 東金ヒカル @KOU3422

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