3話初めての戦い
ゲームが始まると同時に、学園の至る所からざわつきが広がり、静かだった空気が一気に波打つような感覚が押し寄せた。瞬く間に、ソリッド粒子が空間を満たし、現実と非現実の境界が曖昧になっていく。教室内には、まるで異次元に足を踏み入れたかのような不思議な空気が漂い、学園がどこか幻想的な雰囲気を纏っている。
「始まったね……」
「そうだね。学園内は広いとはいえ、近くに他のペアがいてもおかしくないと思うよ。」
新田さんが軽く頷く。「ポジション的に考えると、近接戦特化のプレイヤーか、小回りが効く小銃を扱うプレイヤーがやってくる可能性が高いんだよね。」
「和泉君が前に出てくれたら、私がちゃんとサポートするから大丈夫!」
俺は少し不安になりながらも聞き返す。「でも、弓で教室や廊下の狭い空間で戦うのって、難しくないか?」
新田さんはふわりと笑って肩をすくめた。「意外と私、狙うの得意だから任せて!」
「静かに!誰か来る!しゃがんで」
その言葉が響くと、周囲の空気が一瞬凍りつく。心臓がドクンと音を立て、耳鳴りが響く。俺は天音に促され、教室の間仕切りの壁に隠れるようにしゃがんだ。視線はドアの方に集中し、緊張感が高まる。どんな敵が来るのか、頭の中でシミュレーションを重ねる。
「敵のペアがこの教室を通り過ぎたら、背後から不意打ちで行くよ。」
新田さんが小声で俺に指示を出し、その声には決意がこもっている。俺は小さく頷いた。呼吸を整え、静寂の中で緊張が一層強まる。背中の汗がじわりとにじむ中、耳を澄ませて敵の足音を待つ。
「上の階だとあまり敵はいないな……」
一人の男が心配そうに呟いた。彼の目は周囲を警戒しながら、落ち着かない様子で教室の入り口を見つめている。
「他のところでは戦闘が始まってるみたいだな。ここを選択して、正解だったな」
もう一人の敵が微笑みながら続けた。「できる限り戦闘は避けたかったから、いい場所を見つけたよ。」
「でも、油断は禁物だ。」
最初の敵が言葉を続ける。「こいつらがここにいるとは限らない。隠れているかもしれないし、油断して近づけば一発でやられる。」
「そうだな。でも、奴らを見つけたら、全力で叩きのめしてやろう。」
もう1人の男がそう返した。
「あぁ、ここで負けたら笑いものだしな……」
一瞬の静寂が流れる中、彼らの声が響き、廊下に緊張感が漂った。
敵のペアが俺達の横を通り過ぎて行く。俺は新田さんに目を向けると新田さんはまだ動かないでとジェスチャーしてきた。
「今だよ、和泉君お願い!」
「わかった!」
俺は新田さんからの指示を受け、教室から飛び出した。
「何!?」
驚いた反応が遅れたペアの一人は日本刀を持ち、もう一人はアーティファクトを展開していなかった。俺はアーティファクトを展開していない方の男に向かって走り出し、
「
バスターソードを召喚し、思い切り男に向かって振り抜いた。
バスターソードを食らった男は吹き飛ばされ、廊下に倒れ込む。しかし、今のだけでは倒しきれていないはずだ。
「こんちくしょう!!!」
もう一人の男が俺に向かって日本刀を振りかざす。
俺はそれを前に飛び込む形で避け、体勢を立て直し、バスターソードを相手に突き刺すように思い切り突き刺した。
「グハッ!!」
日本刀を持っていた男が背中から倒れ込む。
急所を狙えたのか、一度の攻撃で倒せた。
だが、まだ油断できない。
「この、良くもやったな!!」
最初に吹き飛ばした男が俺に向かって思い切り殴りかかる。
俺は吹き飛ばされ、体勢を立て直すことができず、生き残った男の手にはメリケンサックが握られていた。
男は追撃の如く俺に馬乗りになり、殴り続けた。
このままじゃ、新田さんが危ない……
何とかして逃げ出そうとするも、逃れられない……
どうすれば……!
「はい、ごめんなさい」
新田さんはバレないように後ろから回り込み俺に殴りかかっていた男の頭に向かって思い切り弓を弾いた。
「なっ……」
小さな男のうめき声が聞こえ、そのまま男は倒れ込む。
「大丈夫? ものすごく殴られてたけど」
「大丈夫、改めて実感したけど本当に痛くないね……」
俺は自分の身体をさすりながら、軽く笑う。
「凄いね! 和泉君、本当に初心者?」
新田さんの目が輝いている。
「ちゃんと初心者だよ……たまたま不意打ちでやれただけ……」
「この人達どうなるの?」
俺は倒れ込んだペアを見つめながら、ふと思った疑問を新田さんに聞く。彼らの表情がどんなものだったのか、思わず想像してしまう。
「やられたから少しの間気絶しただけだよ、別に怪我とかないと思う……」
新田さんの声には安心感が漂っていたが、彼女の言葉がどこまで本当なのか、正直不安でもあった。初めての戦闘で、まだ状況が掴めていない。
「それにもうそろそろしたらフィールドの外に運び出されるようにNPCの犬がやってくるよ」
彼女の言葉に、ふと疑問が浮かんだ。
「NPCの犬?」
その言葉を口にする
「そう、犬可愛いんだよ」
新田さんの笑顔が、少しだけ俺の不安を和らげる。まるでその瞬間だけでも、この場が和やかになるような気がした。
すると、どこからともなく現れた数匹のサモエドのようなNPCが、頭に救急サイレンを乗せたヘルメットを被り、ソリを引いてやってきた。彼らは倒れ込んだ男二人をヒョイっと口で掴むと、ポイッとソリに乗せ、頭のサイレンを鳴らしながら去っていく。
「何あれ……」
驚きと疑問が入り混じった声が、自然と漏れた。
「可愛くない?ものすごくもふもふしてそうで可愛いー」
新田さんは目を輝かせ、まるでその光景に心を奪われているようだった。彼女の反応を見て、少し気持ちが楽になる。
「あれって他の人に運ばれてるの気づかれないの?」
俺はサイレンの音が響く中で、それが本当に隠されているのか疑問に思った。
「そうね、他のプレイヤーに見られないようにステルス機能ついてるからわからないよ」
新田さんの説明に納得しつつ、少し安心した。
「それよりだいぶダメージ受けちゃったみたいだね……」
彼女の言葉に、改めて自分の状態を確認することにした。
「そうだね……」
俺はHPゲージを開くと、半分近く無くなっていることに気づいた。戦闘の疲れがじわじわと心に忍び寄ってきた。
「とりあえず回復しちゃおっか……30秒くらい待ってて」
新田さんは腕をこちらに向け、気を貯めるように集中し始めた。その姿に、どこか神秘的な雰囲気を感じた。
「リジェネレーションっ!」
彼女の声が響くと、俺の周りに淡い青い光が包み込むように広がり、見る見るうちにHPゲージが回復していくのを実感した。
「ごめんね……自信満々に言ったけど私の
少し照れくさそうに言う彼女の姿は、初めて戦闘を共にした仲間としての絆を感じさせた。
「いやいや、十分だよ。ありがとう。」
その言葉を返すことで、少しでも彼女の心を軽くできればと思った。
「どういたしまして」
彼女の微笑みが、俺の心を和ませる。
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