推しとの出会いは運命的じゃなかった!

 本名を書くのは恐れ多すぎるので、このエッセイでは私の推しを「Hくん」と呼ばせていただきます。


 推しになったぐらいだから、さぞかし強烈な出会いだったに違いないと思われたかもしれませんが、私が初めてHくんを認識したときは、そんなに運命的ではありませんでした。


 よくある、テレビで偶然見た、というやつです。


 初めてテレビで見たHくんのプログラムはミッションインポッシブル。たぶんご存知ない方だらけでしょう。もちろんオリンピックではありません。


 なんと、Hくんが中学三年生の時です。


 世界ジュニア選手権で優勝した時のショートプログラムだったんですね。

 当時、そのプログラムの一部が流れたのを見ただけでした。


 どうしてそこまで印象に残ったのか。

 それは、Hくんの表情のせいでした。

 中性的な可愛い顔が凄むとこんな顔になるの?! 怖いとさえ感じました。中三のまだ少年なのに!


 一瞬映っただけで、表情と、表現に驚かされたんです。あれ? こう書くと意外に運命的なのかな?

 とにかく、なんというエネルギー!

 私はその前から、フィギュアスケートが好きな人でした。その私は思いました。

 この子はきっと伸びる!!


 そして容姿がこれまた好みだったんですね。

 私、自分で驚いてしまいました。ちゃんと好きな異性の顔があるだ、私って。


 それまでどちらかというと女優さんの顔が好きだった私。


「天音って好きな男性のタイプないの?」


 友人に不思議そうに言われたことがあります。


 特にはね、いなかったんですよ。

 あ、渡哲也さんはかっこいいと思ったかな。

 私、年上が好きだったから。


 ところがですよ。人間、あまりに好みの顔を見ると人生変わるんですね。Hくんは私の好みのドストライクだったようです。


「うわー、好みの顔が生きてるんだ、この世に」


 妙な感動の仕方をしました。


 けれどね。所詮顔が好みなだけでは推しにはならないんです。


 この時、まだ私にとって、Hくんは推しではありませんでした。


 キャンデロロ選手のダルタニアンは最高だったし、織田君のチャップリンも、ランビエール選手も好きでしたね。Hくんは、あくまで好きなフィギュアスケート選手の一人でした。


 それが変わったのが、福岡でのグランプリファイナルでHくんが初めて金メダルを取った時でした。2013年。Hくんが18才の時になりますか?


 演技に鳥肌がとまりませんでした。


「やっぱりやる子だと思ってたよ〜! この子はきっとオリンピックで金メダルを取れるに違いない!」

 

 画面越しの彼に向かって叫んでました。


 その頃とにかく滑らかなスケートで強かったパトリック・チャン選手。

 チャン選手の後はHくんの時代になる! 


 確信した瞬間でしたね。


 そして、その時、メダルを手に弾けた彼の笑顔に私は、それまでの自分を殺されたんです。はっきり言います。世界が変わりました。


 私はすっかりこの美しい少年に夢中になりました。普段はあどけない笑顔を見せるのに競技中になると鬼神の如く厳しく凛々しい顔。闘争心が強いのにそのスケートには繊細な美しさと惹きつけられる華があって。何より音感がずば抜けている。


 果たしてHくんは一つ目の五輪金メダルを獲りました。


 ソチ五輪後。想いが溢れて、初めてファンレターを書きました。

 自分でもアホだと思いました。10才以上も年下の男性にファンレターを書くようなた時がくるなんて!!

 もうね。伝えたいことは山ほどあったんですよ。なのに、うまく言葉に表せずありきたりのことばかり書いてしまい、歯痒くて切なかったです。

 それでもいいんです。なんとか伝えたかった。

 貴方の演技が、全てが、大好きでたまらない人がここにいるんだよと。


 Hくんはただスケートをしているのではない。背負っているものが大きく、翼を負傷した天使のようだとよく感じます。

 こんな言い方は彼には失礼ですが、神様はHくんに次々と試練を与えます。でも彼はその試練をドラマティックにクリアしていく。人生が劇的すぎるとはたから見ていると感じますが、本人はきついですよね。


 脱線しましたが、Hくんサイドからお返事が来ました。今では信じられないことだと思いますが、彼は若い時は手書きでファンレターに返事を書いていたのです。

 私に来たお返事は手書きではありませんが、スケート靴のチャームが入ってました。

 もったいなくて持ち歩いてはいますがチャームとしてはつけていません。(なんだか気持ち悪い人みたいでごめんなさい)でも言わせてもらいます。私はね、チャームはいらないから、読んでくれたというなら、そちらの方が嬉しい。

 本当のところは読んでもらえたかどうかはわかりません。それでも、返事が来たことは、ちゃんと届いたんだ! と思い、嬉しかったです。


 その後も何度も手紙を出しました。手紙だけでなく、贈り物もしました。

 いい年したおばさんがすることではないとひかれるかもしれませんが、一方通行でも手紙を書きたい! と思えるほどの推しができたのは初めてのことでした。


 Hくんが毎日どこかで頑張っていると思うだけで自分も頑張ろうと思える。

 もうね、その想いは、夢にも出てくるぐらいなんですよ。


 夢に彼が出てきた日は、次の朝がなんと幸せなことでしょうか。

 夢でもかっこいい。そして、夢では私に優しい……。

 私は夢の中で何度もHくんと会話しました。

 不思議なことに、それは現実に則していて、彼が出るか出ないか分からない試合の前に、「出るから応援してね」と言われる時は、彼は試合に出たのでした。


 それだけじゃないんです。


 Hくんは私の行動さえも変えていきました。

 まさに、私は生まれ変わったのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年12月19日 07:00

推し活、楽しんでます! 天音 花香 @hanaka-amane

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画