第3話 未希という人間
「キーンコーンカーンコーン!!」「ガラッ!」「すみません、遅れました。」
はぁはぁと息を切らせながら未希が教室に入ってきた。「平、明日からは気を付けろよ。」「はい。」「「あははは。」」と仲の良いソフトテニス部のメンバーが少し笑って茶化していた。
本作品の主人公の1人、「平 未希(たいら みき)」はごく普通の高校2年生である。容姿はウルフカットに近い髪型で黒髪。平均より少しだけ身長は小さく、胸は名字のとおり平である。
あまり口数が多い性格でないため友人が多くはないが、真面目であるため好印象を持たれている。凹凸のない身体つきな事も相待ってスポーツが得意である。
(そういや、今日見た夢...変だったな...。動けなくなった私を、ある人が抱き抱えて、夜の空を駆けていった夢....。)などと上の空で授業を聞いていた未希。
同時刻、別のクラスでは男子生徒が「未希...。」と小声で呟いていた。身長が高く塩顔である。そしてカバンを少し開いて中を見ると、そこには異能銃、カーストリガーが。
つまり、悪人が主に用いる兵器が入っていたのである。
少し時間は飛んで1限の終わり、未希は教室で先ほどの人物によって呼び出され、図書室の角の、一目に付きにくい場所に連れてこられた。
「わざわざ呼び出して、何か用?」と珍しい事態に疑問を覚える未希。「........。」男子生徒は黙ったまま、先ほどのカバンの中からある物を探している。
「実は...。」口を開いたと共に、「カチャ」とカーストリガーをカバンから取り出して見せる男子生徒。
「何これ?モデルガン?」と未希が興味津々に見ていると、男子生徒は一言伝えた。「実は俺、4月に空先輩と会ったんだ。」「えっ......。それ本当?!」と未希が男子生徒に顔を近付けながら言った。
「う、うん...。」と一瞬顔を赤らめながらも、男子生徒は違う方向を見て歩きながら事情を説明し始めた。
未希は自身が中学3年生の時の記憶を回想する。自分と、今目の前にいる幼馴染である、羽藤 伶人(はどう れいと)。そして、色々な事を教えてくれた、天望高校ではない別の高校に通っていた2歳上の空先輩。
空先輩をリーダーに、3人は夜警団という集まりを結成し、夜の街を冒険していた。と言っても大それた事は行っておらず、
中学時代に反抗期を迎えていた未希、そして家庭の事情で中々遊べなかった伶人(れいと)が途中で知り合った遊び慣れている空先輩と共に街の探検やアミューズメント施設で遊ぶ。と言った程度であった。
しかし、3ヶ月した所で空先輩は2人を置いて姿を消してしまった。最後の日の出来事は、何故か2人とも記憶が曖昧で覚えていない。
伶人が話始める。「俺が学校から帰って2階の部屋に戻り、鞄を机の上に置いた時に、「やぁ。」と声がした。その声の方向を見ると、なんと窓枠に空先輩が座っていたんだ。
困惑よりも嬉しさが勝って、聞きたかった事が沢山あるから話そうとしたら、手から糸のようなものを出されて口と体の動きを封じられてしまったんだ。」
「糸って...空先輩は蜘蛛にでもなったって言いたいの?」と現実味のない話に疑いを持つ未希、伶人は質問には答えなかった。「まぁ、続きを聞いてくれ。」俺の前にこの銃と説明書を投げて、
「これは警報機能を取り付けられる銃型の装置だ。スキルモードで警報機能、ショットモードは護身用だが最終手段だ。
特にアイツは危険な物によく首を突っ込むからな。念の為だ。だが安心しろ。何かあっても、俺が必ずお前らを守ってやるからな。」
と言った後、空先輩はその場で背中から落下して行ったんだ!糸が外れて動けるようになった俺が焦って下を見たが、そこには空先輩はいなかった....。」
まるで嘘のような現実離れした話を未希は簡単に飲み込む事は出来ず、暫く考えていたが、
「それで、何で今更それを言ったの?なんか理由があるでしょ、また空先輩に会ったとか?」
「いや...実は昨晩と今朝に未希に付けていたアラームが作動して...。」「え??私なんかあったの?昨日そんな危険な目にあった記憶ないんだけど。」未希は本当に思い当たる節がなく困惑した。
「その...昨日廃ビルで爆発事故があって、その近くに居たらしいじゃん。未希の警報機能がこの銃と似た種類の銃が近くにあると作動することを踏まえると、未希は昨日もしかしたらかなり危険な事に巻き込まれてたんじゃないかな。」
「あ〜、そう言えば....私昨日、友人が怖い男に連れ去られたのを見て、廃ビルに行ったんだ。望来は普段の様子と変わらなかったから見間違いだと思ってたんだけど....。」
昨晩の出来事を少しだけ思い出した未希。「そういえば....誰かと複数回あったような...。」真とあった事は思い出せないでいる。
「そんな事が!?未希は大丈夫だったの!?」と焦った伶人は未希の肩を掴む。「いや、心配はありがたいけど、私はなんとも....。」「爆発事故の近くに居て無事と言うのも変な話だ!ならきっとそこでこの銃絡みの事があったんだよ!」と未希の肩から手を離し、歩きながら自身の推理を早口で伝える伶人。
「そういえば、空先輩と最後にあった時も記憶が曖昧だったよね。もしかしたら空先輩が居たのかも。」と自身の願望を言う未希。
「そ、そういえば、今日はこの銃の警報装置を付け直そうとしてたんだった。と未希に銃のスキルを使おうとすると、
「いや、私が使うよ。これ。」と伶人の構えた銃を抑えながら未希が言った。
「え....。大丈夫...?」と心配そうに未希の目を見つめる。「うん。実は私よりも危険な目に合ってる可能性がある人が居るんだ。私はその友人を守る為に使いたい。あと、特進コースの伶人にこれ以上世話かけられたくないし。」
「もしかしたら、空先輩にも会えるかもだしね。」
と言い、カーストリガー「Alarm」を羽藤 伶人から貰い受けた。「説明書はまた後で送るね。」と伶人が言ったところで、
「じゃ、また!」と未希は急いで教室に向かい走り出した。
その後ろ姿を見ながら、「そういう利他主義の精神は夜警団の頃から変わってないんだね....。」と伶人は悲しそうな顔で言ったが、その声は届かなかった。
未希と伶人との秘密の会合と同時刻、謎の黒い空間、昨晩の時間を起こした犯人が体を糸で拘束され、天井に吊り下げられたまま気絶していた。
しかし、「いや」と言う叫び声と立ち込める血腥い臭いを感じて、目を覚ました。「起きたか。」そういう男の前には血だまりと横たわった人がいる。
「どこだここは!?お前、助けろ!?俺は身代金で車を買うんだぞ!?!?」と助けを乞う犯人。「何言ってんだ。あんな作戦成功する訳ないのに。」と男が犯人の方に近寄る。
「そ、そうだ!俺はテラーって奴に脅されたんだ!1人でやれって!俺は悪くない!!」と適当な弁明をする犯人。
ふと、血だまりの近くに横たわっている男が目に入る。その男は首がなく、生首が後ろの方に転がっていた。
「はぁ...!はぁ....!」と恐怖のあまり過呼吸になる犯人。近付いてきた男は手のひらから出した糸で犯人の口を抑えた。「俺はね。君の暴走の後始末に来たんだ。」と男は淡々と話す。
「本来なら俺のワークスペースの中なんて格別な空間で死ぬ事もなかったが、オマエは俺の友人を巻き込んでしまった。俺が殺さないと気が済まない。」
と言い腕を内側に動かし、犯人の口を塞いでいた糸を口から離すと、即座にその糸を犯人の首の横までずらして、手を外側に開く動作に入った。
「待っ」犯人が言い終わるより先に犯人の首は落下し始めた。
一方、学生の癒しの時間、昼休み、未希は望来と共に教室で弁当を食べていた。「本当に貰っていいの?」「うん!昨日の夜のお返し。」
「いや〜それにしても....。」弁当箱と中身はお揃いだったが、中には見慣れない料理やローストビーフ、伊勢エビ、キャビアが入っていた。
「どう考えても値段が釣り合ってないって...。」「まぁまぁ!今日はいいのいいの!」と食べるように促す望来。
その笑顔を見て、断るのも申し訳ないので食べる事にした。「ん!おいしい...!今までで一番かも。」と言って次々と食べ進める。未希が7割ほど食べた所で、
「そうだ。昨日の人誰だったの?」と尋ねた。望来は完食した弁当箱を片付けながら、「お得意様の迎えよ、まだ駆け出しの企業だから、マナーがなってなかったようだけどね!」と口から出任せに嘘をついて誤魔化す。
「うそ。だって未希を乗せた車、廃墟のビルに停まってたじゃん。」「え゛?!」望来はその発言に驚き教室中に響く声を上げた。
「そ、それは....。」
女子の3人グループが白い目で見てきて、その内のリーダー格の女子生徒が「菅原。うるさいんだけど。」と露骨に嫌そうな顔で注意してきた。
望来は立ち上がり、「ごめん。後で説明するね。」と未希に伝えて立ち去っていった。
先ほど注意してきたグループの他の2人は、「わざわざ特進コースからここに食べに来るとか友達いないんじゃない?」「スタイル良いし髪が地毛でプラチナブランドとか当て付けかよ。」と陰口を叩いていた。
慌てて弁当の残りを完食して追いかけようとする未希に対しても、「何考えてるかわからないやつ。」「どうせ金目当てで仲良くしてるんでしょ。」「ムカつくヤツ。」と言った感じだった。
望来を探し初め、3つ目に捜索しに来た食堂で未希が見たのは、大盛りのカレーライスを一心不乱に食べていた望来であった。「弁当箱、返すね。めっっっちゃ美味しかったよ。」と感謝を伝える。
「わざわざありがとね。あぁ、さっきのは気にしてないわ。慣れっこだから。でも未希の食事の邪魔しちゃ悪いなって思って離れちゃった。」と胸の内を伝え、未希は静かに頷いた。
昼休みは、あと5分だけとなった。
アンノウンズ〜特命異能銃事件簿〜 好塚 つぞ @Tsuzoo07
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