逃亡者

結城 優希@毎日投稿

逃亡者

(無理だ。もう私は耐えられない!宇宙そらと北岳になんて行きたくない!いや、一緒に行くのがほんとに宇宙で変なのが何もいないなら別に行ってもいいけど……。あそこには絶対にいる。だって何かいたもん!目が慣れたのか原因はよく分からないけど何か見えたもん!)


 余談だがこの星には存在しない力に晒され続けた結果、畸人はある種の魔眼を手に入れていた。その効果は単純明快、魂の色の認識である。人なら白から黒の間。件の宇宙人は赤であった。


閑話休題そんなことより

(私が見たのは宇宙の中の赤い球体とその周りの無数の青白い球体。青いってことは所謂人魂ってやつ?まぁいいや、問題は宇宙の中の赤いやつ。他の人の中にあるのは全部白と黒の間にの色。やっぱり何か別の入ってるじゃないですかヤダ〜。憑かれているとかじゃなくて完全に成り代わられているのか……。一度目の性格の変化の時はまだ宇宙があそこにいたんじゃ……。でも2度目の性格の変化のタイミングで宇宙が消えた。そう考えるのが妥当かもしれないわね……。)


 この女、ビビり散らしているため宇宙人から完全に舐められているが実は結構いい線言っていたのである。素の地頭の良さと迫り来る死への恐怖による火事場の馬鹿力が噛み合った結果であった。


「北岳楽しみだね。」


「そのことなんだけど……。」


(勇気を出せ私!ここでビシッと断わr……。)


「どうしたの?」


(ヒッ!怖いよぉ〜。)


「私やっぱり登山怖いし行きたくないなぁ〜って……。」


(言えたぞ!偉いぞ私!)


「そっか……でもしょうがないよね。」


「ま、また別の機会にどっか遊びに行きたいね。」


「うん!そうだね!」


 この難所をどうにか切り抜けた彼女だったが、親友に成り代わった超常の生き物の存在を知ってしまったこと。そして、見えてしまった自分にまとわりつく謎の青い球体。これらによるストレスは想像を絶するものであった。


 当然と言えば当然かもしれない……。彼女は誰にも助けを求めることなど出来なかったのだから。極限の緊張状態の中一人誰にも言わずに戦い続ける。彼女はある種の孤独感に苛まれていたのかもしれない。そして気付いてしまったのだ。


"これ"に終わりなどないと……。冷静さを捨てて狂ってしまった方が楽であると……。


 それに気付いてから彼女が狂うまでは一瞬だった……。


「逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ」とうわ言のように繰り返しながら彼女は自家用車で走り出した。事故を起こしても彼女は止まらない。もうそこに理性など存在しないから。そこにいるのは取り憑かれたように逃げ続ける一人の狂人であったから。


 結局彼女は、車が動かなくなって車から出て走って逃げ出したところを警察に確保された。その後、彼女はその異様な状態を鑑みて精神病棟に入院することとなったがその精神的疾患が緩和されることはなかったと記録されている。彼女は狂ったように「宇宙人が来る!」「妖怪がいる!」「逃げたい!」「逃げなきゃ殺される!」と叫び続けたという……最期まで……。


 これが、とある指定難病が公式記録に残された最初の例である。これを後に人々は超常生物接触型精神汚染と呼んだ。

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